「月下の花」

第22章 ギブンの館


 ラース・ワウは軍事要塞であると同時に、大規模な居住空間でもある。標高200メートルほどの山麓にそびえる、この山城には、領主家族を護衛する軍属が、大勢暮らしている。軍属以外の、様々な職業の男女も、多く住む。ここは、多種多様な人々の我が家であり、ふるさとであった。

 騎士階級より下位である、平民階級も多く、召使いとして従事しており、ミ・フェラリオもたくさんいて、彼ら妖精は、騎士や召使いの間を飛びまわり、噂話に興じている。

 さて、古い城砦の一角に、人目をはばかるように設えられた棟があった。3階建ての石造り、その中には、不自然に華美に装った女だけが、ひどくおおぜい、住んでいて、彼女らは、昼過ぎに寝床から這い出て、風呂に入り、夕刻までに、お化粧という名の<戦闘準備>をする。

そう、この棟に住む女たちとは、城付きの娼婦。ここはラース・ワウ城内フーゾク施設、娼館なのである。

娼婦は、お客のお好みに応じれるよう、年齢・容姿等、多種多様な女が揃っており、みな、その道のスペシャリストで、階級は平民である。彼女たちが、なぜ娼婦になったのかは、くどく説明する必要はないだろう。

娼館のあるじ、娼婦長は、50がらみの太った女で、元・現役。現在は、城内の男たちからの<ご指名>を受け付け、配下の女たちに<出撃>を命ずる任務に就いていた。

浅黒い肌を、脂肪でたるませたおばさんは、ドレスの袖をたくしあげ、1階のフロアを行ったり来たり、いらいらして階上を見上げている。なにやら煩悶している彼女の手には、何十枚もの「ご指名申し込み書」が。

『申込者:○○部隊長
指名嬢:A子ちゃん
時間:夕食から朝まで
場所:申込者の個室』

この注文だと、A子ちゃんは一昼夜、○○部隊長につきっきりになるので、このフーゾク店では、最も高い料金。更にA子ちゃんは、店のナンバーワンであるから、他の子よりも高い指名料が取れる。つまり、おばさんにとって、○○部隊長は、上客なのだ。が、しかし。

「おおい、A子!なにやってんだい、早く降りといで。いつもの部隊長さんが、ご指名だよ。オールのお客さんだよ!」

2階にいるらしい、A子ちゃんは、ヒステリックに叫んだ。

「いやよ!あたし、トッド・ギネス様以外の客は、もう、絶対いや。トッド様からの指名は、ないの?今夜の、彼のお相手は誰なの。またB子なの?ちきしょう、なにさ!」

すると、A子ちゃんの隣室にいるらしい、B子ちゃんも、階上で叫び出した。

「トッド様は、あたしのものよっ!A子、あんたなんかに、彼を渡すもんですか!」

「黙れ、ガキ!」

「うるさい、死ねババァ!」

キィーッと2人の娼婦は、取っ組み合いのケンカを始めたらしい。おばさんの頭上、天井が、どすん、ばたん、と暴れる女の足音で振動した。

これが、一昨日来の、娼婦長の悩みだった。店の稼ぎ頭が、唯一夜、トッド・ギネスのお相手を務めて帰ると、
「トッド・ギネス様以外の男なんて、イヤ。彼にしか抱かれたくない!」

と言うのである。おとといの晩はA子ちゃんで、昨夜はB子ちゃんが、トッドと…おばさんは、きつく叱った。

「いいかげんにおし、あんたたち!いいかい、あたしらは、業務上やむをえず、男と寝てやってる職業人なんだよ。この業界に入った時から、わかってんだろう。カスどもに、気に入られるよう仕向けてなんぼなんだ。こっちから、いい男、選べる立場じゃないんだよ!」

しかし、A子ちゃん20歳も、B子ちゃん18歳も、ああトッド様、トッドさま、と泣き暮らし、他の客はイヤだと言い張る。ナンバーワンとナンバーツーがこの有り様では、娼館の商売は上がったりだ。

娼婦長は、泣いてイヤがる2人の襟首を、引きずりながら、思っていた。

(たまに、いるんだよね。こういう女殺しの男がさ。褥が職業の、娼婦の心でさえ、とろとろに、とろかしてしまう床上手が…しかもあの男、ウチの一番いい子を2人も出してやったのに…)

「なぁおい。もっと若い子は、いねぇのかよ。10代の、素人の少女は、いくらなんだ?」

トッドにこう言われたおばさんは、あんたのお勘定は、ショット・ウェポン様持ちだからいいものの、これ以上、「トッド様でなくちゃイヤ」な部下を、自分の店から出したくはないと思っていた。




 同城内、第1会議室。ドレイク・ルフト一下、軍幹部が列席する議場、ソプラノの声が、天井と、男たちの鼓膜をつんざいていた。

「私は反対であります!ギブンと交渉ですと?!今更なんの話し合いか!きゃつらは、我らが領民を大量虐殺した!そして一昨日、私の部下がダーナ・オシーに撃たれた!かようなやつばら、全軍を投入し、殲滅あるのみ!」

着席男性中、彼女のソプラノに、最も弱い鼓膜を持つ男が、低い声でいさめた。

「ガラリア。交渉とは、表向きだ。わたしがギブンの館に赴くのは、敵状視察、兼、競技場襲撃の意図を問い質し…」

バーンが言い終わらない内に、興奮して席から立ち上がっているガラリアは、居並ぶミズル・ズロムとゼット・ライトを、(私の味方をして。)と、すがる目で見ながら、同時に(私に反対するなら、あなた方も嫌いだ!)と威嚇し、

同軍の敵、バーン・バニングスへ向けて、なお甲高い声を尖らせた。

「なまぬるい!目には目を、歯には歯を、である。ギブンの館を爆撃し、ダーナ・オシーを、マーベル・フローズンを、抹殺すべきである!」

ここでショット・ウェポンが、嘲笑しながら何か、言おうとしたが、ドレイクが話し出したので、口をつぐんだ仕草を、ゼットだけが見てとっていた。

「ガラリア・ニャムヒー。」

「ハッ、お館様。」

「我が民人を殺された。これへの示し、わしが忘るるとでも、思うてか。あの宵、わしは宣言したであろう。ロムンの命運は、あれで尽きたのだ。バーンを行かせるのは、この大目標が為の、策である。よいな。」

青いガラリアは、極めて静かな口調でこう言ったドレイクに、ホッ、と安堵し、猛っていた表情をすぐ、和らげて、頬を恥じらいで染めた。その感情=表情の豹変は、まったくもって、幼い少女だ。ピンク色の制服に身を包む彼女は、激情の波に漂う、小船か、木の葉か。両足の谷間の剣で、そう感じているのは、バーンとゼットの2人。

続けてドレイク・ルフトは、騎士団長バーン・バニングスに、明朝、騎馬隊でギブンの館に向かうように、ミズル・ズロムには、後方より、気付かれぬよう、ブル・ベガーで陣を敷けと命令した。聞いたガラリアは、

(そうか、馬で行くバーンは、囮で、ミズル殿のオーラ・シップが攻撃を!さすがだ、お館様!)

と、単純な喜びを隠さない顔になった。本人には、隠す・隠さないの自覚は、まるでないのだが。

すると、ずっと黙っていた、すまし顔のショット・ウェポンが、ガラリアにとって、非常に意外な事を言い出した。

「バーン殿。あなたの騎馬隊に、聖戦士トッド・ギネス殿をお連れ願いたい。」

「なんのためです?!」

と、同時に言ってしまった、青い髪の男女。そして、それを恥じ、お互いの顔を見、

(なんで同時に言うのだ、おまえは!)

と、ガンをとばし合う男女。それに感じる、ジェラシーを、ひた隠す男の名は、ゼット・ライト。くぼんだまぶたを、更にくぼませている。

バーンが、先に口を出そうとする、ガラリアに負けまいと、

「ショット様、聖戦士などは、所詮は、傭兵。政治的駆け引きの場になど、同行は必要ないと思われますが、いかに?」

畳み掛けてガラリアが、

「ショット・ウェポン殿!トッド・ギネスなど、軽佻浮薄、且つ、戦意を著しく欠く者。もしも聖戦士をと、言われるならば、私は、ショウ・ザマ殿を推挙いたす!」

おや、副団長ガラリア・ニャムヒーは、トッドを随分、お嫌いで、若輩のショウを、ことほど左様にお気に入りらしいな、と、思ったのは、第1会議室にいる全員である。ショットは、とくとくと説明した。

「ならば両名を。バーン殿、現在、地上界では、長年に渡り、大規模な戦争は起こっておりません。これを冷戦と呼んでいます。そのような世界にいた地上人には、我らが戦況、いかに予断を許さぬか、わからぬのも、仕方なきこと。ならば目下の敵に、直に会わせ…しかる後、あなたが、ドレイク様の策を成功させて見せますれば、そう、ガラリア殿の言われる、戦意に欠く者にも、否応なく、聖戦士たる自覚を促せるかと。このように考えるのですが、いかがですかな。」

バーンとガラリア、そしてミズルは、ショットのこの説明で、合点がゆき、聖戦士を2人とも、ギブンの館へ連れて行く案に同意した。

 ゼット・ライトだけが、金髪碧眼の、自称アメリカ人を、疑念の目で見ていた。

(ショットめ、何を考えている?…お前は、いったい、何の目的で、どうやって、バイストン・ウェルにやって来たんだ?俺が、愚直なふりをしているのはな、ショット。お前の、真の目的を、見定めるためだ!せいぜい油断してるがいいさ、この白豪主義者め!)





 トッド・ギネスと、ショウ・ザマは、あるじ不在の機械の館で、自分用ダンバインの整備を、させられていた。工兵と同じ、灰色のツナギを着用し、顔をすすだらけにしている。

作業しながらショウは、さかんに、トッドに話しかけていた。

「なあ、トッド。ダーナ・オシーの、マ…マーベルっていうアメリカ人がさ、俺に向かってさ、原爆は、ソ連を抑制するために、仕方がなかったって言ったんだよ。どうなんだよ。アメリカ人って、みんなそういう意見?」

マサチューセッツ州出身のトッド・ギネスは、東京出身者の問いに、丁寧に、答えてやっている。

「そんなことはないッ!すまん、ジャップ。いや、ショウ。そいつ、相当な田舎もんだよ。何州だろ?あのなァ、アメリカは、州によって、教育程度が、かなり違っててな。ド田舎に行くと、第二次世界大戦が、あったって事実すら、知らない奴がゴロゴロいたりするんだよ。いやすまん。原爆のことを、そんな風に、ヌケヌケと言う女なんざ、単なるパー。俺、同国人として、恥ずかしいったらねえぜ。」

「そうか。それ聞いて、少し安心した。トッド、俺、あんた見直した。」

18歳のショウ・ザマは、屈託なく笑い、プラチナ・ブロンドのトッドは、

「俺の方こそ、すまん。その、マーベルの事といい、おとといの戦闘で、助けてやれなかったことも、本当にすまんと思ってる。」

「マーブ…マーベルのことは、トッドのせいじゃないよ。そっちこそ、気にするなよ。俺だってさ、初戦闘で、なにがなんだか、わかんなかったし。」

ダンバイン整備場で、ほがらかに話していた2人へ、全く足音を立てずに、接近してきた、薄茶色の軍装、下級兵が1人。

 ショウは、伏臥させたダンバインの真下に寝転んでいて、自分の顔の、わきに立った軍靴を見るなり、

(また、あいつだ!)

あわてて逃げようとして、ダンバインの装甲に、もろに頭をぶつけてしまった。

「痛てぇッ!」

並べた、別カラー・ダンバインの下にいた、トッド・ギネスが、

「どうしたショウ?大丈夫か。」

と言うより早く、セザル・ズロムは、もうショウのいるダンバイン下にもぐりこみ、

「ショウ君、ショウ君。どこを打ったのさ、ここ?ほうら、痛くない、痛くないさ。僕が、なでなでしてあげるさ。」

逃げ場の無い、寝転んだダンバインの真下、肩を掴まれ、頭をなでまわされて、ショウはもがいた。今日はノーヘルのセザルの、栗色の長髪が、重みを持ちサワサワと、ショウの首にからみつく。

「やめろッ、はなせよぉッ!」

「いやさ、いやさ。ショウ君、おでこ痛いの、治さなきゃ。あ、こぶになっちゃってるさ。かわいそうさ!」

言いながらセザルは、その長身を、狭い場所で器用にくねらせ、足で足を組み伏せて、逃げようとするショウを離さない。

座間君は、こいつ、ふざけるのもいいかげんにしろ、と思い、金髪の隣人に救助を求めた。

「トッド、こいつ、なんとかしてくれよ!」

既に、ダンバイン下の、男2人の様子を、覗き込んでいたトッド・ギネスは(彼はこの時点で、セザルの一挙手一投足に注視させられていたが、まずは、)子供を叱り付ける言い方で、

「おい、おまえ。そんな場所で遊ぶんじゃないよ。こちとら仕事中なんだ。ほら、とっとと出ろ!」

23歳のおにいさんに、<いかにも>叱られました、という顔でセザルは、トッドの足元から、<すごすごと>はいずり出てきて、ショウ・ザマは、反対側からようやく逃げ出す事が出来た。

ダンバインの向こうで、ショウは、おでこに手を当てたり、ツナギのすすをぱんぱん叩いたり、セザルに触れられた部分が、かゆいような、こそばゆいような、妙な感覚を振り払おうとして、

(あれ?額の、打った所が…けっこう、きつく打ったと思ったのに、そんなに痛くなくなってる。)

と、気が付いたが、すぐ忘れた。

 トッドの目前に立ったセザルは、いつもの、ウヒャウヒャ笑いで、

「すみません、聖戦士どの。ちょっと、ふざけちゃったさ。あは!」

とだけ言い、去ろうとして、背中でトッドの声を聞き、

「おまえ…」

ひた、と立ち止まった。

「確か、名前は Caeserだったな。」

金髪の地上人のその声は、セザルにだけ聞こえるように、気を使った声量であると、セザルにだけ、わかった。セザルは、振り返らず、トッドにだけ聞こえる声で

「あ、はい。Cesarです。」

「Caeser、おまえ…あんまり無茶すんなよ。」

背中を向けた、栗色の長髪は、毛先まで一本も微動だにせず、かっきり2秒間、動作を止めた。そして、髪の束がひるがえり、顔がこちらを向いた。その顔は、いつもの子供っぽい笑顔。にこ、と笑った、その刹那。セザルの、濃い青い瞳は、トッドの、淡い青い瞳を、瞬間、韃靼人の矢が如く、射ぬいた。

と同時に、きびすを返し、セザルは、やけにゆっくりと、去っていった。トッドがもう、自分の方を見ていない事を知っていたが、後ろ姿のセザルは、髪の毛だけが、天然の風にたなびいて、背筋は、まだ、緊張を保ったままだった。

今、この2人の男は、たったこれだけのやり取りで、お互いが「ただ者ではない」事を、理解した。

トッドはセザルを、

(あんまり、お友達には、なりたくないタイプ!だが、兵隊としては、この軍で一番上等な男だ。それがなぜ、下級兵の位に甘んじているのか…?)

と思い、

セザルはトッドを、

(…あの人は、敵に回すべきじゃない。)

と、この時、悟った…栗色の髪の騎士は、後年、そう語った。



※韃靼人(だったんじん):16世紀、現・モンゴル周辺一帯を制覇した騎馬民族。「韃靼人の矢が如く」とは、彼らの騎馬より放たれる弓矢の、速さ、的を射る正確さ、一撃でもって瞬殺する強力さを表す慣用句。





 翌朝、ラース・ワウ正門。ガラリアは、ギブンの館へ出立しようとする、バーンの騎馬隊を、ユリアと供に見送りに来ていた。のではない。自分が行きたいのに、置いてきぼりにするなと、バーンに言いに来たのを、ユリアがなだめていたのだった。

黄緑色の髪、漆黒の瞳のユリアは、行く気満々で軍服を着込んでいるガラリアを、屈託ない笑顔のまま、いさめている。

「ガラリアさまってば。そんなに、お行きになりたいんでしたら、昨日の軍議で主張なされば、宜しかったのに。」

にこにこしながら言うユリアと好対照、青い眉を三角にして興奮し、甲冑の肩あてが、ガチャガチャ鳴るほどに、上半身を振り回しながら、ガラリアは、

「昨日は、お館様が、お優しげだったから、言うのを忘れたのだっ!いや、ショットが、地上のれいせんがどうのと、ごたくを並べたから、言いそびれたのだっ!私が行かねばなんとする。ユリア、名無しのハンカチのかたき、マーベルの顔を、この目で見、しかる後、仇討ちいたす!なんでこの役がバーンなのだ。いくら原作はそうだからと言って、この小説は私が主人公だ!筆者は、何を考えておるのだ。重要イベントの場に主人公がおらずに、何がオリジナリティー重視であるかぁっ」

ミズルさん、お願いします。発進準備中のブル・ベガーから、紫色の服、ミズル・ズロムが駆け下りて来て、一喝。

「ガラリア。原作とか、オリジナリティーとか、そういう軽挙な言動は、かぎかっこ内では、つつしむようにと、何度も言っておるだろう。あいや、わかった。それがしの一存で、ガラリア、そなたも同行するを、許可する。」

と、いうわけで、ガラリア・ニャムヒーは乗馬で、バーンの騎馬隊に随行し、ショウ・ザマは、ホンダダに乗り、ガラリアが脇に寄り添った。ただ、トッドは、

「俺ァ、乗馬はいまいち。ミズル艦長とご一緒させてもらって、艦で待機する。ガラリアさん、後ろから見守ってんからさ、前線は、宜しくな。ショウ、ガラリアさんの言う事、よく聞くんだぜ、いいな。」

バーン・バニングスは、自分が言いたいセリフ「見守ってる」を、トッドに奪われ、ショウ・ザマのお守り役を、ガラリアに奪われ、

(遠足か。お弁当持って、遠足か。原作では、わたしが一番かっこいい回だったはずなのに…)

まるかっこ内で、愚痴をこぼしていた。





 ギブン家へは、本日訪問すると、書状で連絡済みである。騎馬隊一行は、イヌチャン・マウンテンの尾根づたいに、わだちのある馬車道を進んだ。この道は、2年前に、シルキー・マウを捕獲するため、侵攻したのと同じ道である。ガラリアは、ホンダダのショウと、ずっとお喋りながら、馬を歩ませていた。

「だからね、ガラリアさん。ホンダダじゃなくて、ホンダ。」

「ほ、ほんだ。」

「そう、本田宗一郎さんが作った会社だから、ホンダっていうの。それで、このバイクは、アスペンケード。」

「あ、アルペンガイド。」

「いや、アスペンケード。」

「あすぺ…言いにくい名称であるなあ。ホンダダはホンダダで、よいではないか。」

「だめ。本田さんは、本田さんって呼ばなきゃ、失礼だよ。本田宗一郎さんは、立派な人だから、俺、尊敬してるんだ。本田宗一郎さんはね、静岡県生まれでね。」

自分の後ろで、本田宗一郎談義に花を咲かせている男女を、無視するフリで耳ダンボなバーンは、山岳地帯を抜け、平野が開けた所に至ると、

「よし、休憩。ここらで、昼食にするとしよう。(ホントに遠足だな…)」

引率者の指示に従い、ガラリアとショウは、一本の樹木の下に尻をついた。ガラリアは、持参した竹かごのランチバッグを取り出した。

二人が並んで座っている大木の、太い幹の反対側に、バーン・バニングスは、独り、背中を向け、座った。ガラリアとショウを、べったりさせたくないのだが、かといって、隣りに座り込むまでは、出来ない。木の幹にもたれ、バーンは、召使いに作らせたサンドイッチを、正しく、砂(サンド)を噛む思いで、ひとくち、噛んだ、その時。ショウ・ザマの大声が。

「ええー、これぜんぶ、ガラリアさんが作ったの?!」

バーンは、口にしていた、砂イッチを、ぽろんと地面に落とした。

「そうだ。絶対、ギブンの館に行くつもりで、今朝は5時に起きた。私の召使いもまだ、厨房に出てきていない時刻であるからな、自分で作ってきたのだ。ショウ殿の分もある。味の保証はせぬが、さあ、召し上がるがよい。」

「あ、ありがとう、ガラリアさん!俺、お袋にだって、お弁当、作ってもらったことなくて…うあ、うまい!この卵焼き、甘くて、すっごくおいしいよ。これなに?あっすげー、ホットサンドだ。サンドイッチじゃなくって、ちゃんと両面焼いてある、すげーや。」

はぐはぐと、食べるショウに、自分もホットサンドを食べながら、ガラリアは、

「別に、すごくはない。具を挟んで、オリーブオイルを香り付けにして、フライパンであぶっただけだ。簡単だ。」

「ううん、すごい、美味しいよ、ガラリアさん!パンの間で、ハムに、チーズが溶けてて、きゅうりもしなっとしてて、味付けも丁度良くて。俺、こんな美味いホットサンド、初めて食べたよ!」

「飲み物はいかがか、ショウ殿。水筒に、りんご紅茶を入れてきた。さあ、杯を取られよ。」

「あ、ガラリアさん、そんな、注いでくれなくても…あぁ、ありがとう…あー、これも、うめー!マジうめー!酸味と甘味がほどよくブレンドされて、喉ごしさわやかだね!のど、カラカラだったから、この甘味が、ホントいい。」

「そうか。よかった。適当に、紅玉りんごを煮出した湯で、アール・グレイを入れて、れんげの蜂蜜と、あと、あんずジャムを一さじ入れてみただけだが。お気に召して、幸いだ。」


…バーン・バニングスは…

(いつからこの小説は「美味しんぼ」になったのだ!お前ら、東西新聞社の者か!
…いや、だって…ガ、ガラリアの手料理なぞ、わたしは、ただの一度も…いいや、女性が、手ずから作ってくれた料理なぞ、母上にしか…ガラリアの手料理が、かくも美味いものだと、今まで知らず、もらえず、くださいなどと、口が裂けても言えるわけがなく…

…うぅ…く、悔しい!なぜだ。ガラリア、なぜ、ショウ・ザマなどに、弁当を作ってやるのだ!わたしは、あぁ、わたしは…わたしは食べたい!わたしはガラリアに紅茶を注いでもらいたい!わたしは副主人公だったはずだー!)

木の幹の陰で、膝を両手で抱え、うなだれているバーンを見つけたショウ・ザマが、まるで無邪気に、

「バーンさん?どしたの。あ、もしかしてガラリアさんのお弁当、食べたいの?ね、ガラリアさん、バーンさんにもこれ、あげていい?」

ガラリアが口を、ホットサンドから離すより早く

「いらぬわ!そのようなもの!」

怒鳴ってバーンは立ち去ってしまった。彼のいた場所には、ひとくちだけ噛んだ、サンドイッチが、砂に汚れて残された。

 ガラリアはと言うと、お弁当は、自分用に作る分量を、ついでに多めに作っただけで、たまたまショウと同行するハメになったので、礼儀として「どうぞ」と差し出しただけだった。自分は料理が得意だとも思っておらず、料理が好きなわけでもない。ホントーにテキトーに作ったものが、なぜだか好評を得るという、どこかの筆者のような女であった。だが。

(ショウ・ザマは、おいしいおいしいと言って食べてくれたものを、バーンは!あんな、言い方しなくとも…ひどい。そんなに、そんなに、私の事を…私が作った料理など、汚いものだと思っているのだ!…それほどまでに、彼は、私を嫌いなのだ!)

感情がすぐ顔に出るのが、ガラリアである。赤い唇をぶるぶる震わせ、垂れ目を潤ませたガラリアが、ひどくショックを受けたと、すぐわかったショウ・ザマが(誰でもわかるのだが)、

「き、気にすることないよ、ガラリアさん。バーンさんは、きっと、会談の事を考えて、イライラしてるんだよ。ね、俺でよかったら、お弁当、もっといただくからさ。」

遠くへ、部下の警備隊兵士の方へ、立ち去ったバーンを見つめたまま、食が進まなくなってしまったガラリアを、傍らで見つめるショウ・ザマも、この時、ひどくショックを受けたのだった。

(そっか。ガラリアさんは、バーンさんが、好きなんだ…なんだ、そっか…
…美人で、仕事に厳しいのに、人には優しくて…戦った時には、俺のこと、すごく誉めてくれて。今日は、俺のために、お弁当まで、作ってくれたと思って…

 おれ、勘違いしてたんだな。

…好きに、なりかけてたんだ。ガラリアさんのこと…おれ…)

ショウの黒い瞳も、涙で、潤んだ。





 ギブンの館。白壁に群青色の瓦屋根の、流麗な屋敷である。この城の中、奥つまった一部屋が、マーベル・フローズンの個室であった。彼女の部屋は、外から見られないよう、ガラス窓は、表面が鏡になっており、出入り口の鍵は、マーベル自身と、館の若旦那様、ニー・ギブンだけが保持していた。

 真昼間であるのに、今、この部屋は、カーテンが閉められ、ドアは、内側から鍵がかけられ、個室のぬしは、全裸で、ベッドの中にいた。若旦那様と供に。

「ねえ、ニー。今日来る、ドレイクの使者は、騎士団長のバーン・バニングス、だけ?」

言いながらマーベルは、うつ伏せに寝ている、ニー・ギブンの裸体、背筋に、肩に、濡れた唇をあてがい、チュ、チュ、と音をたてて吸い、

「よせよ、もう。」

と言う彼が、好きだと知っている体の部分、首筋、耳の付け根をチュウチュウ吸い、同時に、自分の乳首を、彼のひんやりした背中に押し付けて、

「ぁあ…ねえ、ニー。あたしが話した、ルフトの聖戦士。まだ子供なの。まるで何も知らない、男の子。こんなことも…」

今朝から、既に3回、マーベルの腹上でイッた、若旦那さまの剣を、19歳のアメリカ女は、手指でもてあそび、またニーの剣が、性懲りも無く、硬くなっていくので、亜麻色の長髪を、もう振り乱し、息を荒くして、マーベルは、

「はぁあ…ニー!あたし、あの子をギブン家のものにしたいわ。あと1人、アメリカ人もいるんですって。その人も、ギブン家のものに。あなたのためによ、ニー!」

うつ伏せだったニーは、もう、仰向けになっており、もう、マーベルは、彼の上にまたがって、もう、彼の剣を、自分で、自分の中に、差し込んで、

「アア、ああッ!いい、いいでしょ、ニー、あなたのものに、するの、あたしが…しても、いい?アァッ、いいわ、ニー!」

馴染んだ女の体が、騎乗位で、上下に振動しているのを、下から見上げて、口元をにやつかせたニーは、自分の腰も上下させ、乱れる彼女を、なお突き上げ感じさせて、

「そいつらの上に、乗るのか。こんな風に?マーベル、君は本当に、俺にとって、なくてはならない人だよ!」

ギブンの聖戦士の、こういう時の声が、けして外へもれないように、この部屋は、防音壁で厳重に囲まれているのだった。

 マーベルとニーは、本日4回目のイクを済ませ、軽くシャワーをあび、そそくさと着替えをしていた。まだ、甘い声で、女の方が、

「…バーンには、ダメなのよね?あたしを…そういう使い方はしたくないの。あなたは。どうしてよ?」

どうしてなのか、充分わかっているくせに、マーベルは意地悪く尋ねた。愛人の口から、それを言わせたくて。イッた後に、そういう話題を振られると、男はイライラするものだ。それすら、わかっていて、マーベル・フローズンは、ニー・ギブンに返答を要求した。

 ムス、として、ニー・ギブンは、洋服の襟を正し、あさっての方向に目をやり、

「バーン・バニングスには、金を積む。そういう手はずだ。」

「そう。でも、バーンが、お金で動かなかったら?」

「いい加減にしないか!」

ギブンの若旦那様は、マーベルの部屋の鍵を、ポケットに突っ込み、乱暴にドアを閉めて、出て行ってしまった。そんな彼を、もう見るのはやめて、亜麻色の髪にブラシをかけながら、女は、鏡を、自分の美貌を見ていた。そして、彼女は、<バーン・バニングスのために>念入りな化粧を始めた。

「ふふ、ニーったら。あたしが、ダーナ・オシーで、バーンのドラムロと剣を交えて帰った時…装甲を通して聞こえた、彼の声の、野太く澄んでいたこと…男の色気が匂うような、あの声に…あたしが、しびれてしまった、ルフトの騎士団長、バーン・バニングスは、アの国一の美男子だと評判ですもの、どれほどの器量の男かしらって、言ってやったら、ニーったら!ふふふっ、楽しみだわ。これから、そのバーンに会えるんですもの!」





 ギブン家の居間には、バーン・バニングスと、護衛のための警備隊兵士数名だけが、通された。そこには、当主ロムン・ギブンが1人、迎え出て、敵方の騎士団長に、紅茶を勧めた。ロムンの家臣は、居間に入らず、周辺の廊下に散らばり、敵の訪問団を監視していた。

 ガラリアはというと、別の、控えの間に、ショウと供に残るよう、年若い家臣に言われ、彼はドアを閉めて出て行った。(彼の名は、ドワ・グロウ。)

「バーンだけ通して、我らが控えの間とは。ショウ殿、あんな若造の言いなりになる事はない。鍵はかかってないようだ。出て行って、見て参ろうではないか。」

彼女にこう言われて、ショウ・ザマが思ったことは。

(さっきの男の人、俺よりだいぶ、年上じゃないか。20代ぐらいの…それを、ガラリアさんは、若造って言うんだな。てことは、ガラリアさんから見たら、俺なんて…3つも年下で、童貞で…全然、そういう目では、見てくれないんだ…)

ショウのそんな傷心に、まるで気付いていないガラリアは、彼の手をぐいっと掴み、さあ行こう、と言う。彼女に手を握られたショウは、カァッと赤くなり、

(ああ、やめてよ!俺、今、貴女にそんな事されたら、おかしくなりそうなんだ!)

でも、熱い手を振りほどけない。ショウは引っ張られて、廊下に出た。そこには、キーン・キッスと、飛んでるチャム・ファウが。

 キーンは、ドアを堂々と開け、出てきた、青い髪の女戦士を見るなり、ビクつきながらも、気丈に、

「か、勝手に出ないで下さい、ガラリア殿。あなた方は、控えの間にいてもらうよう、あたしはニーに言いつかっているんですッ」

チャムは飛び回り、キーンの口真似をする。

「そうよそうよ、ニーがここにいさせろって言ったもん!」

子供と、ミ・フェラリオなど、ドレイク軍副団長、ガラリアの敵ではない。

「どけいッ。私は、聖戦士殿をお連れし参った派遣団の代表である。ロムン・ギブン殿のおわす部屋に通すがよい。その方たち、客人に対する礼節もないのか!」

こう言ったガラリアは、もうショウの手を離していた。ショウは、

(あぁッ、ガラリアさんに触れられた所が…熱い。熱い!)

そして彼女の、毅然とした態度、高らかに響くソプラノに、ショウは改めて魅了された。

(だめだ、俺は、やっぱり、好きだ。好きなんだ。ガラリアさん、貴女が…)

ガラリアはバーンを好きである、と知ったからこそ、募ってしまった自分の気持ちに、戸惑い、触れられた手首から股間へと、男の情熱が充血するのを、ショウは感じた。

 そこへ。かつかつと靴音を鳴らして、表れたのは。ニー・ギブンであった。若旦那様は、いたってにこやかに、顔なじみのガラリアに会釈し、

「失礼した、ガラリア・ニャムヒー殿。そうですね、あなたの仰る通り…おや、そちらは?」

逸早く答えたのは、チャムである。

「ニー、こいつ、地上人!あたしが、ラース・ワウで会ったやつ。」

自分が皆に注視された。ショウは、ガラリアの随行として、恥にならないようにしなきゃ、彼女に、俺の態度を、立派だと思ってもらいたい、という一心で、戸惑いを振り払い、敵方のリーダーとおぼしき青年に挨拶した。

「お、俺は、ショウ・ザマ。日本人、いや地上人だ。ガラリアさんのお供で、お邪魔してる。ガ、ガラリアさんの言う通り、俺たちも、ちゃんと、会談の席に入らせてもらいたい。」

一生懸命、理路整然と言ったつもりだが、緊張のあまり目線が泳いでいる少年を一瞥し、ニーは、鼻で笑いたくなるのを、こらえた。

(なるほど。マーベルの言う通り、まるで、おぼこい子供だな。)

思いながら、ニーは、ガラリアとショウを、居間へと招き入れた。

先にドアを開け、うやうやしく「どうぞ」と頭を下げるニー・ギブンに、「うむ」と言い、部屋に入って、ガラリアが見たものは。


 女だ。


ひとめで、ガラリアはわかった。その女は、テーブルで対座する、白髪の紳士(これがロムン・ギブンだという事もすぐわかった、だがそんな事より)と、バーンとの間に、紅茶ポットを手にした女が…

召使い女ではない。浅黄色の、肌の露出の多いパンツスーツを着こなし、亜麻色の長髪のつややかさを、自慢げに肩から胸元に垂らし、袖なしの二の腕を、むちむちと見せびらかし、紅茶を、バーンに、

 私のバーンに、

注いでやる素振りをしながら、その女は、量の多い睫毛に、マスカラをたっぷりつけ、口紅は濡れて光る真珠色を、たっぷり塗り…美貌に自信のある女が、更に化粧をほどこしていること、紅茶を注ぎながら、男に色気を振りまいていること、バーン・バニングスに対して、その女が、しなを作り、秋波を送っていること!

そして、

その女が、マーベル・フローズンであることが!

恋する女である、ガラリア・ニャムヒーには、ひとめで全てが、わかったのだ!

(あの女ぁッ…マーベル!マーベルめ、私のバーンに、なんたる!なんたる!)


<次回予告>

BGM ♪ちゃらららっ ちゃらららららっ

やっほぅ、セザル・ズロムでーす。
今回のサブタイ、ギブンの館、ってさ、原作の第2話とおんなじだからさ、
別のタイトルにしよーかとも、思ったんだけどさ、
やっぱ、この小説を購読してくれてる読者さんて、
原作「聖戦士ダンバイン」見てる人なんだよね。
プラース、新規の読者さんも、入りやすいようにってことでぇ、
原作の第何話に相当するかってのが、わかりやすい方がいいかなって思って、
まー、あと、正直思いつかなかったんでー、こうしてみたさ。

さぁて、次回の月下の花は。

ついに、ガラリア嬢とマーベル嬢、直接対決!
童貞ショウ君は、かぁーいそーに、ガラリア嬢を好きになっちゃってさ、
一方、ニーと出来ちゃってるマーベル嬢は、
フツーに面食いなんだろうね?なんとバーンに夢中ときたさ。
これ、何角関係なんだっつー状態だねー。どうなるんだろねー?

まー、僕に言わせたら、全員が全員と、とっととやっちゃって、
ビバヒル状態になればいいじゃん、なんだけどさ、
1人、どうしょうもなく真性童貞が混ざってるからさ、いくら声が同じでも、
月下の花は、ビバヒル状態には、ならないんだなーこれがー。

え?ビバヒル状態ってなんだって?

中原茂さんが、吹き替え出演されていた、
米国製TV映画「ビバリーヒルズ青春白書」な状態を指す言葉さ!
続きものでさ、1回でも見逃すと、
もうカップリングが変わっちゃってて、話しが読めなくなるほど、
全員が全員とやっちゃうお話しさ。なんつって、筆者はさ、
あまりの展開の早さに、ついて行けなくなって、途中で見るのやめちゃって、
熱狂的中原茂マニアの友達に「非国民」呼ばわりされたのさ。
まー、そんなこともあったさって話しー。

じゃっ、またねぃ。

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