月下の花

第68章 ガラリア煩悶す


夜半を、とうに過ぎて。ここはラース・ワウ、灯りの消えた客室。白いシーツの上、ガラリアは、一糸まとわない裸体を、男の胸にもたげていた。男の方は、ぐうぐう、いびきをかいて、すっかり寝込んでいた。男は褐色の肌を夜陰に沈め、一方ガラリアは、その白い半身をそり返し、たくさんいっちゃった後の余韻を、股間にじんじん感じていた。それでいて、彼をではなく、別のなにかを、見つめていた。

ガラリアを取り合うケンカをして、帰ってきた男は、寝室に入るなり、待っていたガラリアにむしゃぶりつき、彼女の細部まですべてを、なめまわした。分厚い唇と舌で、れろれろとガラリアの乳輪をなめあげ、柔肌を吸い尽くし、嬌声をあげる21歳の女の子を、音をたてて突き上げた。ゼット・ライトの肉棒は、かつて見たことがない太さ、長さであった。私の膣には大きすぎて…私は、大声をあげてしまって…でも、たまらなく彼は、優しかった。

ゼット・ライトはガラリアに、精液を飲ませたり、しなかった。顔射したり、しなかった。かわいらしい彼女の顔に座って、紅色のほほに睾丸をなすりつけることで興奮したり、しなかった。挿入する以前に、フェラチオさせたり、しなかった。フェラチオさせながら、歌を歌わせたり、しなかった。お風呂で恥ずかしいプレイをさせたり、しなかった。陰毛でせっけんを泡立てて、背中を洗わせたり、しなかった。わざわざ他人が通る廊下に面した小部屋でセックスして、声を殺させて、恥ずかしがるのを見て楽しんだり、しなかった。(注:元カレはそういう人でした。)

ゼット・ライトは、貴重品でも扱うように、丁寧にガラリアを扱った。声をかけながら、同意を得ながら、気持ちよくなるよう、愛撫した。充分に唾液をつけて、充分に濡らしてから、挿入した。ゆっくり優しく、さしこんだ。かきまわし、突き上げたが、激しくは、しなかった。

行為が終わり、日中の激務に加えて、トッド・ギネスと殴り合いまでして、肉体的に疲れ果てていたことを、ゼット・ライトは率直に詫びた。先に眠ってしまうことを、許しておくれと、そんなことにすら、頭を下げて、そしてようやく、眠りという、自己の探求に向かった男を、ガラリアは、一種の感慨を持って眺めていた。

セックスして、気持ちはよかったし、ゼット・ライトってば、「とってもいい彼氏」だと、ガラリアは思った…だが…。

心の中で、ガラリアは、箇条書きをはじめた。

【不満その1】 前戯が長すぎる

丁寧に愛撫すると表現すれば、聞こえはよいが、やられてる私の身にもなれ。私がそもそも、なんのために、この男を誘ったと思うのだ。私だって、褥(しとね)がしたくて、欲求不満だったからだ。

ああそうとも、前戯だって、気持ちはいい。しかし物事には、限度というものがある。ゼット・ライトの前戯は、長すぎるのだ。ちょうどよいところで、挿入してほしいのだ。

1セット、前戯15分+挿入後15分。これぐらいが理想なのだ。しかしゼット・ライトは、前戯をタップリ45分はするのだ。45分ってあなた。それはNHK大河ドラマの長さである。前戯は15分でいいのだ。NHK朝ドラの長さが、丁度いい尺なのだ。

【不満その2】 男根が、いくらなんでもでかすぎる

男のモノは、大きければ大きいほどいいという風潮があるようだが、それは男社会の論理である。それはそう思うだろうなあ。見たらわかる世界だから、比較対照もしやすいだろう。

しかし現実には、大きさとは、相対評価ではなく、絶対評価なのである。A君の男根よりも、B君の男根の方が、5センチ長ければ、B君の勝ち、ではないのである。A君のモノは、とってもでかいなあ。いい意味で、でかいなあ。つまり、ちょうどよい大きさだなあと感じられることが、大きさに対する評価なのだ。

よい男根とは、私の女陰と、相性がよい男根なのである。なんだか、相田みつをの色紙みたいな文体になってきたな。

「合わなくたって いいじゃないか 好きなんだもの」

じゃぁないのだ。全然、よくないのだ。ゼット・ライトは、でかすぎるのだ。さらに…

【不満その3】 遅漏すぎる

さきほど私は、1セット、前戯15分+挿入後15分が理想型だと述べた。ゼット・ライトは、前戯が長すぎるばかりか、射精するまでが、さらに、気が遠くなるほど長いのだ。ハアハア、ハアハアと、どんだけやり続ける気かと思った。気持ちいい具合を通りこすと、しつこいなあと、怒りに転ずるのだ。

1時間半かけて、1セットが投了したと思い、私は胸をなでおろして、フウようやく終わったと。今夜はもう眠れると。そう思った瞬間、ゼット・ライトが、何を言ったと思う?

「こんどは、体位を変えて、やってごらぁ〜ん。」

やってごらぁ〜ん、って…。あのな。お前は、幼稚園の先生か。こちとら、お遊戯に来てるんじゃないのだ。何度も言うが、物事には、限度というものがあるのだ。そうだ、こういう場合に用いるべき、ことわざがある。

過ぎたるは、及ばざるがごとし。

以上3点の不満を、箇条書きにしたガラリアは、早く寝てしまいたいと思い、うとうとした。…眠りに落ちたと思った…

「きゃあっ。」

恐怖によって、悲鳴をあげた。自分の声の大きさに驚いて、ガラリアは目を覚ましてしまった。いびきをかいているゼット・ライトの向こうに、恐ろしい化け物が、寝そべっており、ガラリアを、にらみつけていたのだ。

化け物の体は、漆黒だった。ゼット・ライトの肌も黒かったが、それは、人間の肌の、黒さだった。化け物は、そうではなかった。その黒さとは、暗闇の黒さだった。どこまでも底が見えない、闇の色だ。化け物は、ぐるる、と、ライオンかヒョウのような、うなり声をあげた。隙あらば、ガラリアを牙にかけ、殺そうとしていた。彼女は、ガラリアを憎んでいた!そう、化け物は、メスだった。

化け物の正体が判明した。ガラリアは、恐怖におののき、彼女の名を叫んだ。

「ダフィー・ホープかッ!!」

黒いダフィーは、良人(おっと)を盗んだ白い娘を、憎しみに燃えた、冷たい目でにらみつけ、殺してやる、殺してやると、うなり続けていた。

「やめろ、やめろ…、ダフィー・ホープ、やめてくれ…。私は…私は…!」

ガラリアを憎む化け物、ダフィー・ホープの、さらに向こう側に、ユリア・オストークの顔が浮かんでいた。親友であるはずのユリアが、ガラリアをにらんでいた。ユリアはガラリアを、とがめていた。

ガラリア様、どうしてそんなお部屋に、いるのですか?どうしてそんな所で、裸になっておられるのですか?

「やめてくれ、ユリア!私は…私は…!」

ユリアのさらに向こう側に、ガラリアが一番見たくない人の顔が、浮かんだ。青い髪の長い…青い髪の長い…女性が…

「ああ、お母様!私を見ないでください、お母様!」

不貞の寝所で、ガラリアを責めさいなんでいたのは、罪悪感たちだった。

第68章更新後書き

前章へ  次章へ

「月下の花」目次3へ戻る

ガラリアさん好き好き病トップへ戻る