月下の花

第65章 トッド激震


聖戦士トッド・ギネスは、初恋の女性ガラリアと、ともに暮らせる日々を、神に感謝していた。だが、彼女の心が、いつも、うわの空であること、じぶんのほうを向いてくれたとしても、それは業務上やむをえずであることを、深く、嘆いた。

「生きながら、生皮をはがれる思いだ。ああ、苦しいよ、ガラリア。どうしておまえに、出会ってしまったんだろうな。どうして俺は、恋なんか、しちまったんだろうな。」

ラース・ワウでの通常軍務。今朝もガラリアは、トッド・ギネスと並んで歩き、てくてく歩き、赤と青のドラムロが、置いてある庭に行きどまり、乗りこんで、そして、飛ぶ。

今朝歩くときは、もう少し、彼女の近くに寄ってみよう。彼女に、何を話そうか?どんな言葉を、選んでみようか?

「おはよう、ガラリア。」

今朝は、やけに魅力的だね、だなんて、言えなかった。彼女の魅力は、日に日に、増すばかりだった。

「美人じゃねえんだよな、ガラリアは。よく見れば、表情にあどけないところがあって、垂れ目で、しもぶくれで、ちっとも美人じゃない。だが、なんだろうな、なぜだろうな!こんなに魅力的な女は、ほかに、いやしない。ガラリアの所作にみとれていると、色っぽさをたくさん発見するが、それは意図的な演出じゃあない。彼女の素直な仕草が、ぜんぶ、色っぽくなってるだけなんだ。彼女は、彼女自身が作り上げた、芸術なんだ。世界に1人しかいない、個性なんだ。」

キロン城からラース・ワウに戻って、3日間が経過していた。トッド・ギネスの心配事は、尽きなかった。この間に何度、ガラリアは、いそいそと機械の館に通ったか?

ガラリアから求愛され、それを拒んだ罪を、糾弾された男、ゼット・ライト。彼は、既婚者であることを明かし、ガラリアは、おおやけの場で、彼の罪を許すと発表した。そしてガラリアは、「私のお慕いする殿方は、ゼット殿だ。」とも、公言していた。その男ゼット・ライトは、住み慣れた私室のあった建物、すなわち兵器工場である機械の館を、ゼラーナに焼かれてしまったので、再建すべく、立ち働いていた。

トッド・ギネスの恋する女性は、技術者ゼットの作るオーラ・バトラーだけではなく、彼の新しい私室の設計図にも、興味津々らしく、黒人男のそばにすりより、彼の手元の図面をのぞきこみ、フンフンと、うなずいている。

金髪のトッドが、青い短髪の彼女の名を呼んでも、彼女は、1度はふり向くが、たいした用事でもないから、すぐに、ゼット・ライトのほうを見つめてしまう。トッドは、毎日、毎時間、何か用事をこさえては、ガラリアを呼んだ。そしてそのたびに、彼女はトッドをふり向き、そしてそっぽを向いた。

ガラリア・ニャムヒー21歳と、ゼット・ライト28歳は、明らかに、大人の関係で、ただ2人の仲は、2人のくちからは、語られないだけだった。

修理中のバラウの陰で、抱き合い、ディープキスをしているガラリアとゼットが、下級兵に目撃された。当人たちは、やあ、とうとう見つかってしまったねと、目と目でものを言い合い、紅顔をなおいっそう赤らめていたそうだが、あわてて隠しだてしようとは、しなかった。下級兵のほうこそ、あわてて目線をそらしたのに、男女の絡まり合った指は、絡まり合ったままだったのだ。

だから、夜の夜中に、2人の男女が、どこで寝ているか、知りたいと思う者が、いたとしたら、2人が同衾している場所を探し当てるのに、難しくはなかっただろう。

ガラリアの親友女性、ユリア・オストークはむろん、いちばん早く、知っていた。ただユリアは、この件にかんして、手放しに賛成できるわけではなかったが。

ガラリアの貞操が、地上人の既婚男性に捧げられていることは、もはや、公然の秘密になってしまっていた。

本編のヒロインの頬は、朱鷺色に染まっていた。赤い口紅には、悦びが浮かんでいる。女体が、充足している証拠だ。

トッド・ギネスは、何事も、はっきりさせたい性格だった。こんな生殺しの生活には、もう、耐えられなかった。

「結果がどう転んでも、かまわねえ。俺は、ガラリアに、婚約を申し込む!」

プラチナ・ブロンドの彼が息を巻くと、相談相手の少年セザルは、青い瞳に、かげりをおとした。ここは、ラース・ワウの外苑に広がる、森林である。男2人が、密談するには、ちょうどいい場所だ。

「でもさ、聖戦士トッド・ギネス。…言いにくいけど…もう、できちゃってるのさ、あのふたり。」

栗色の長髪を、上背のある背中に、たなびかせているセザル・ズロムは、片恋に苦しむ友人のひたいを見下ろし、哀れに思った。だが、トッドは、意外なことに、あきらめはしなかった。自信たっぷりに、こう言った。

「俺の好きな女には、今は、恋人がいる?だからなんだってんだい。そんなシチュエーション、俺は今までだって、何回も経験したぜ?そして全員、奪いとってやったんだぜ。こんな障害ぐらいで、俺様が、ひるむもんか。ましてやセザル、ガラリアは、俺の運命の恋なんだ!

ガラリアこそ…!ああ、そうだ、この言葉を使う日が、俺にも、とうとうやってきた…!

ガラリア・ニャムヒーこそ、俺の、妻になる女なんだ!そうだ、俺は彼女を、俺の、妻にする!彼女と俺は、神に誓って、結ばれる運命にあるはずだ!

ガラリアと結婚したい。俺は、彼女を妻にできるなら、どんなことだって、してやる!

バイストン・ウェル流に従えば、ガラリアの養父殿、ミズル・ズロム閣下に、婚約さえ認められたら、俺は、正式なフィアンセだ。そうなったら、ガラリアには、俺の言うことを、きかせてやる。ちがうか、セザル。」

まったく、ちがう。セザル・ズロムは、盲愛のあまり、ものごとの筋道を見失っている友人を、いさめた。

「トッド、あなたが、先日まで言っていたことと、ぜんぜんちがってきちゃってるさ。大切なのは、心さ。ガラリア嬢の、気持ちを、ゆり動かすための、婚約の申し出なわけで、制度でもって、彼女をおさえつけようと考えちゃったらさ、本末転倒なのさ。」

すると、23歳のトッド・ギネスは、とつぜんうつむき、ウッウッと泣き声をたてて、本当に泣き出した。切なさが堰をきって、濁流のようにあふれ出た、涙の洪水だった。

「うおっ…くそう…、ガラリアめ、なんであんなやつと!ちくしょう…。こんなに、こんなに、愛しているのに!」

トッド・ギネスは、精神状態が不安定だった。自信家になったり、激しい気鬱におちいったりを、しじゅう、繰り返している。セザルが、そんなトッドの肩をたたいた。

「泣くといいさ。彼女の前で、そのままのご自分を、ぶつけるしか、ないのさ。」

トッド・ギネスは、意をけっして、ガラリアに告白するために、城内に向かって歩いて行った。いつ告白するかなんて、迷ってる余裕など、まったくなかった。今すぐでなけりゃ、意味はない!

時刻は夕食後のころあいで、城内には、電灯や、油ランプや、かがり火や、いろいろな原材料を燃やしたあかりが灯され、明るかった。そのあかりに照らされた、トッドのブロンドは、美しかった。青く澄んだ瞳は、情熱に燃えていた。彼の足取りは、まっすぐに、純愛を希求していた。

夜陰にうつろうラース・ワウ城の西棟にやってきた。一階に入っていくと、扉がいくつも並んだ壁面が続き、面した廊下は、手すりのついたテラスになっていて、扉を尋ねながら、庭が見渡せる。その長い渡り廊下を、トッドがつかつか歩いて行くと、彼に恋焦がれている、おおぜいの下女たちと、すれちがった。また、トッドに抱かれた夜を忘れられない、娼婦たちとも、すれちがった。

こうした女たちが、うっとりみとれるほどに、この若者は、美丈夫であった。

以前の彼ならば、見た目のよい女であれば、見境なく目配せし、見境なく手を出していた。でも、ガラリアへの初恋に目覚めた日からは、他の女には、まったく触れないで過ごしてきた。

今夜、その廊下に、20歳ぐらいの、栗色の短髪がうなじの白さをひきたてている、ひじょうにかわいらしい下女が立っていて、彼女は、聖戦士トッド・ギネス様を、熱愛していた。配膳用のお盆を手にし、水色のスカートに白いエプロンをまとった彼女の、自分へと注がれる、熱っぽいまなざしに、すぐ気がついたトッドは、最初は相手をするつもりはなかったが、ふと思うところあって、下女の手前で立ち止まった。女は、歳は若いが、男は何人か知っているふうだ。

うーんと、考えこんだふりをして、トッド・ギネスは、壁にドンと片手をつき、下女の行く手をはばみ、

「ごめんよ、きみ。いま、忙しいかい?少しだけ俺と、つきあってくれるかな。こっちおいで。」

たったこれだけで、彼女を陥落させてしまった。下女は、くちをきいてもらったことすらない、憧れの聖戦士様に手を握られて、されるがまま。嬉しさのあまり、気が遠くなった。暗がりに物置き小屋をみつけて、そこに女をひきこみ、男はそこでズボンをおろし、5分間で犯して、出てきた。

小麦粉のつまった麻袋の上で、開脚したままの下女は、夢見心地で、聖戦士様が挿入してくださった余韻に、酔っていた。夢のような5分間!トッド・ギネスの女殺しは、熟達していた。

まず物置きの扉を開けながらトッドは、女の美点を列挙し、おとといから、きみのかわいらしさを見つけて、気になっていたんだよ、抱きたくて仕方がなかったんだ、頼むから上に乗らせておくれ。彼女が、うふんと色よい返事をすると、すぐ押し倒し、くちびるをふさいで、舌をねじこみ、同時にスカートをめくりあげてパンティーをおろす。勃起したものをあらわにし、彼女の手で握らせ、また、耳元でかき口説く。ほら、きみを見つけただけで、もうこんなに膨らんでいる、なんて罪な女の子なんだ、ごめん、もう我慢できないから!ここまでで、1分間である。

そして突きさして、最初の1分間は、女が感じるように、優しくかきまわし、終わりの3分間は、男がしたいように、突き上げ続けた。小さな雄たけびをあげて男は、精液を女の腹の上にぶちまけ、とつぜんまた、猫なで声で、かわいい子だ、いい子だ、ああ、よかったよと、さも感動したように、嘘八百を言いながら、キスで締めくくった。

物置きの閉めた扉を背中にして、またつかつかと歩きはじめたトッドは、つぶやきを、つばの一滴といっしょに、吐き捨てた。

「この排泄行為が、あの黒人野郎と、ひきかえだ。ガラリア、おまえの浮気は、これで許してやる。俺は寛大だろ?」

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