月下の花

第64章 ドレイク軍の巻き返し策


ラース・ワウに、ドレイク・ルフトが帰還した。

ミの国は、形の上では、ドレイク軍が占領したが、領土のぜんぶを掌握したわけではなかった。王城のキロン城と、その周辺、首都の狭い範囲を占領したにすぎなかった。

ラウの国王、フォイゾン・ゴウの署名で、宣戦布告の書状が、ドレイクに届けられた。ラウの国と、ミの国は連合し、ルフト領の北側を包囲している。いつでも攻撃する準備がある。和平の条件は、キロン城をピネガン・ハンム王に返すこと。ミの国から、撤退すること。

執務室のドレイク・ルフトは、フォイゾンの書状を机に投げ出し、怒声をあげた。

「キロン城を返せとは、笑わせよるわい!フォイゾンの、たぬき親父めが。ピネガンとしめしあわせ、おのれで城をあけ渡しておいて、ぬけぬけと、よう言うわ。」

バーン・バニングスは、実家は全焼したが、両親は無事だったと、ドレイクに報告した。バーンの父、バニングス卿は、ラース・ワウに宿泊するようにという、ドレイクの申し出を断り、南方、フラオン王直轄地に近い森林地帯にある、別荘にこもった。

ガラリアとトッドは、赤と青のドラムロに乗り、ルフト領の、微妙な国境地帯を見回っては、城に帰還し、報告する任務に、明け暮れていた。ラース・ワウから見て北方の、ミの国境には、真っ黒なダーナ・オシーの軍団が飛翔し、あちこちで散発的な戦闘が、繰り返されていた。守備隊のユリア・オストーク下士官と、セザル・ズロム下級兵たちも、この任務にあたっていた。

半壊した機械の館を建て直すため、ゼット・ライトと、ショット・ウェポンは、攻撃された怒りを、復興に向けて、忙しく働いていた。特に、根城を失ったゼット・ライトの落胆はすさまじく、周囲の者は、機械の館のあるじの、肩をいだき、励ましてやらねばならなかった。ラース・ワウに従事する者はみな、一丸となって、軍の立て直しのために、骨を折っていた。

占領したミの首都、キロン城には、ブル・ベガーと、警備隊のほとんどを置き、ミズル・ズロムが、新領地の統括にあたっていた。この最前線の城に、全戦力を集結させた失策によって、ドレイク軍は傷手を負った。現在、軍は2分割され、半分は、ドレイク旗下のラース・ワウ本陣に、半分は、ミズル・ズロム旗下のキロン城周辺に配置されていた。

ドレイク軍は、キロン城まで誘い込まれて、そこで進軍は止まってしまい、敵に包囲されてしまった。

まったく、戦況は、うまくいっていなかった。

むしろ、ドレイク陣営が開戦したせいで、ラウとミの連合国が成立してしまい、周辺諸国にも、反ドレイクの気運が強まっていた。居城であるラース・ワウに、ふたたび腰をおろしたドレイクは、自分がはじめた戦争を、立て直すことにした。最初、ミの国へ、真っ向からあたり、一挙に攻め滅ぼすことができるとふんだ、自分のあやまちを、部下にわびた。特に、実家を焼き討ちにされたバーン・バニングスには、ドレイクは頭を下げて、すまぬことをしたと嘆いたので、バーンは、おそれおおいことです、どうか、かぶりをお上げ下さいと、頼まなくてはならなかった。

めくら滅法に、オーラ・マシンをぶつけて、勝てる相手ばかりではない。新興領主ドレイク・ルフトは、野心にあふれていたが、けして万能ではない。

執務室に騎士団長のバーン・バニングスを呼び、ドレイク・ルフトは、戦局について話し合っていた。

「西方の、リの国は、どう出るかのう。20年前、国境線の奪い合いで戦争になったが、どちらの勝ちともいえぬ結果だった。双方に、戦死者を多く出したが、結局、国境線は変わらなかったのだ。」

この、リの国との戦争時に、ガラリア・ニャムヒーの父親が、敵前逃亡の咎(とが)で、処刑されたのであった。

ドレイクは、リの国の、様子をさぐるよう命じ、バーン・バニングスは、自分の間諜、ニグ・ロウを使い、リの国が、秘密裏にラウの国、ミの国の連合軍と接触した事実をつきとめた。バーンは、お館様に報告した。

「リの国との連絡役をはたしたのが、ゼラーナのニー・ギブンだったとのことです。リの国は、書状にて、ラウとミの連合には、加勢せぬとの、意向を伝えたよし。」

「ふむ、つまり、様子見というわけだな。リの国め、相変わらずの狡猾さよ。では、ナの国は、どんな様子か?処女王シーラ・ラパーナが治めている、東の海の彼方にある、あの大国は。」

バーン・バニングスは、執務室の机上に散乱する、各地からの報告書をかきまわし、ナの国からのものを探し、読み上げた。

「シーラ・ラパーナ女王は、オーラ・マシンによる軍備増強にはげんでいるとの、報告がありました。未確認情報ですが、巨大なオーラ・シップを建造中らしい、とも。ですがドレイク様、これは必ずしも、我が軍のみを敵対視しての政策では、ありませんでしょう。この群雄割拠の時代にあり、オーラ・マシンを量産し、富国強兵につとめるのは、どの国も同じであります。」

かといって、伝統ある王国、ナの国が、ドレイク・ルフトに味方するわけではない。なにしろ、バイストン・ウェルの王族には、特権階級意識が、色濃く残っているからだ。

シーラ・ラパーナ女王のナの国から見れば、多島海(バイストン・ウェル地図の中央に広がる塩水の海)の西方にある大陸に、たくさんの国がひしめきあっており、その中のひとつに、古い王国、アの国があり、ドレイクなにがしは、さらにその内側に点在する、小領主でしかなかった。この時期のシーラ・ラパーナは、父王が突然死し、12歳で即位した、その5年後にあたり、17歳になっていたが、彼女も例外なく、王族特有の、特権階級意識の奴隷であった。

そして、アの国のフラオン・エルフ王が、文盲の愚王で、しかも種なしだと、バイストン・ウェル全土に知れわたっているのに、いっこうに廃嫡されないのは、エルフ家が、古くからの王家だから、ただそれだけの理由なのである。

「その宗主王家を、わしは滅ぼそうとしている。アの国の国王になるのは、このわし、ドレイク・ルフトよ。そして、わしのもくろみを、つぶそうとしておるのが、ラウの国のフォイゾン王と、ミの国のピネガン王の、義理の親子よ。きゃつらが、かようにしぶとく抵抗するとは、予想しておらなんだわ。こやつらを、どのようにして制覇するか?」

すると執務室の扉をノックする者があり、入ってきたのは、ショット・ウェポンであった。会議に参加した、濃い金髪を肩までのばした地上人は、まず同盟国と力を合わせるべきだと語った。

「ドレイク閣下、クの国の軍隊と、共同で戦線を張りましょう。敵が、連合国軍となったからには、われわれも、味方との連携を、強くせねばなりませんし、実際、現在の戦況では、クの国の加勢が、必要です。攻撃された機械の館が、操業を再開できるまで、まだ日数を要しますから。」

ふだんはポーカーフェイスのショットは、自分の仕事場を焼かれた悔しさから、らしくなく、表情をゆがめていた。バーン・バニングスも、同じく、私憤をおさえながら、意見を出した。

「ニー・ギブンの隠密行動が、気にかかります。ギブン家の御曹司が、現在、ミの国の剣客になっていることが、こたびのゼラーナの攻撃と、わたしの間諜による調査から、明らかとなりました。しかし、ニー・ギブンが、ミの国に所属しているならば、まだよいのです、お館様。わたしが恐れることは…」

冷静さをとりもどすほどに、バーンは、ニー・ギブンの存在が、いかに危険かを思い知らされた。

「もしもニー・ギブンが、アの国の王室に入ったら…!ギブン家反逆の青写真が、我々によるでたらめだと、きゃつめが、訴えでもしたら。そしてもしも、ニー・ギブンが、父親の後任として認められ、城代家老の職に、就任したら…!」

そんなことになったら、アの国の国王になろうという、ドレイクの、初期の野望は、まったくはかない夢と散る。

「そんな事態になる前に、なんとしても、ニー・ギブンを、そしてゼラーナ隊をかくまっている、ミの国とラウの国を、討ち滅ぼさねば、なりません。」

ドレイク・ルフトはバーンの言(げん)を聞き、ううむ、おのれと、苦渋をあらわにした。ニー・ギブンの憎いこと、この上ない。娘のリムルをかどわかし、聖戦士ショウ・ザマとダンバインを奪い、神出鬼没のゼラーナを操る、若造めが!

にがにがしい顔つきの、ドレイクと、バーンと、ショット。3人とも、自分の大切なものを、ニー・ギブンのせいで失いかけたのだ。ドレイクは居城を、バーンは両親の命を、ショットは技術者の命、兵器工場を。

そんな中、地上人のショット・ウェポンが、妙案を出した。

「よいことを思いつきました、ドレイク閣下。シルキー・マウを使って、新たな聖戦士を呼び込んでは、いかがでしょう。」

色を失っていたドレイク・ルフトは、この案に、はっと目を輝かせた。バーン・バニングスも、よい案だと、賛同した。バーンは、ガラリアが、トッド・ギネスのことを、やたらほめていた言葉を思い出し、それをそのまま、くちにした。

「最初に呼び込んだ聖戦士の3人、トカマク殿はあえなく戦死し、ショウ・ザマは敵方に走りましたが、残るトッド・ギネス殿は、軍才はあり、我が軍に、忠節をつくしています。トッド殿のような戦士が、増えるなら、心強いことであります。やりましょう、お館様。」

ドレイク・ルフトは勇み、椅子から立ち上がった。

「いかような窮地にあっても、立ち直してゆけるものぞ。そうよ、我々には、クの国という、心強い同盟国がある。シルキー・マウという切り札がある。なにより、ショット殿、バーン。そのほうら、知恵者がおる。

よし、次の月のみちる夜、オーラ・ロードを開こう!」

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