月下の花

第61章 ゼラーナ来襲、ラース・ワウの危機


ラース・ワウに接近していたゼラーナには、ダンバインと、マーベルのダーナ・オシーが格納してあった。操舵席のニー・ギブンは、じぶんの家、ギブンの館を、焼かれたうらみを、ドレイクの居城に、ぶつけたいばかりであった。いちど、砲撃ボタンを押そうとして、マーベル・フローズンにとめられた。それより先に、リムル・ルフトを救出しなければならないからだ。

ショウ・ザマは、ダンバインに乗りこみ、一気に、ラース・ワウ本館の、リムルの部屋に近づいた。事前に、チャム・ファウを使いにやって、うちあわせ済みだ。リムルは窓から出てきて、ダンバインの手のひらに、のっかる手はずだった。

ところが、ダンバインが窓に近づいても、リムルのかげかたちも、見えない。ショウは、コクピットハッチを開いて、ガラス窓ごしに、彼女の部屋をのぞきこみ、リムルさん、リムルさんと、呼んでみたが、返ってくるのは、頭上からふりそそぐ守備隊兵士たちの弓矢ばかりで、危なくてハッチを閉じた。

「ニー、だめだ、リムルは見つからない。どうするんだ。彼女の居場所がわからないんじゃ、ラース・ワウを爆撃することは、できないぜ。」

すると、ダーナ・オシーで出てきたマーベルと、飛行艇フォウを操縦するキーン・キッスが、ダンバインに合流した。マーベルが、知恵を授けた。

「ショウ、みんな。リムルがいそうな居城は避けて、攻撃するのよ!戦争の基本、まずは武器庫を破壊するべきだわ。機械の館を焼きましょう。」

マーベルは、主要なオーラ・マシンが出はらった機械の館を、爆撃した。ゼット・ライトのすみかは、赤子の手をひねるように、たやすく破壊し尽くされるかに思われた。

ところが、ドレイク・ルフトの留守を守る守備隊兵士は、オーラ・マシンがないからといって、手をこまねいているわけではなかった。機械の館が狙われるのは、わかっていた。大砲をうち、ダーナ・オシーたち敵機を狙った。オーラ・バトラーはどれも、全長7〜8メートルであるから、この標的は、火矢の的にもなった。

だが、それでオーラ・バトラーが撃墜できるものではない。機械の館とその周辺の建物の被害は、だんだんと広がっていった。マーベルとキーンは、敵の基地を攻撃することに、なんら躊躇しなかったが、戦争経験のとぼしいショウ・ザマは、人間が、わらわらと逃げまどっているところへ、銃弾をうちこむことに、まだじゅうぶん、抵抗があった。

地上では、モトクロッサーになりたいと、練習にはげんでいた座間祥は、1965年東京生まれの、18歳だ。彼の国、日本には、平和憲法があり、そして銃規制法がある。ピストルとか、猟銃とか、そういった銃器の本物を手にしたこともなければ、撃ちたいと思ったこともない。彼は、バイクやクルマが好きな男の子であり、ホンダ党であった。ダンバインの操縦をすることは、純粋におもしろいと感じていたが、ひとを殺すにあたいする大義やら、正義やらが、もしも思想信条的に存在しえたとして、それによりかかる気持ちは、とうていわかりかねた。

ショウは、衣食住のてだて、という意味での、居場所がほしかった。バイストン・ウェルに強制連行されたさいしょの場所、ドレイク軍の居心地がわるくなったので、なりゆき上、ギブン家所属の聖戦士になったが、実のところ、本当の兵隊さんになる気は、まだなかった。マーベルの命令をきいて、言われるがままに動いていただけで、空爆をするその手は、なるべく撃ちたくない、焼夷弾みたいな物騒なものは、なるべく人のいないところへ落としたいと、そればかり願っていた。

そのとき、リムルの姿が、ショウの目にとびこんできた。紫色の髪に、ピンク色の服が映えて、遠目にも見分けがつきやすいリムルが、なんと徒歩で、2人の侍女に付き添われて、ラース・ワウの広々とした庭に、出てきたのだ。ショウが、侍女だと思った2人の女は、黒ずきんをかぶっており、遠目には、顔がまったく見えない。

ショウは、リムルを見つけたと、ゼラーナに連絡し、ダンバインを、庭の芝生に降下させた。弓矢も、とんでこなくなった。どうもおかしい。逃亡する姫君に、侍女がついてくるはずがない。コクピットハッチを開き、ショウ・ザマは用心しながら、リムルに呼びかけた。

「リムルさん、大丈夫なのかい。その人たちは、だれ?」

リムル・ルフトは、真っ青な顔で立ちつくし、くちを大きくあけたなり、何も答えない。背後にいる黒ずきんの侍女に、つかまえられているらしいとわかるや、ショウは危険を察した。そして、持ちたくもないピストルをとりだし、

「お姫様を、こちらへわたせ!わたさないと、撃つぞ。」

言い慣れない脅迫文を、読み上げた。すると、黒ずきんの女2人が、かぶりをあげて、その顔をショウ・ザマに見せた。

ルーザ・ルフトと、ミュージィ・ポウであった。

ああっ、とショウが声をあげた。ルーザは、娘の両手を後ろ手に縛り上げ、ぜったい放さないように、リムルの縄を、じぶんの胴体に縛り付けていた。音楽教師ミュージィ・ポウは、慣れた手つきで、拳銃を右手に持っており、ショウがああっと言うよりコンマ1秒早く、もう発砲していた。ダンバインのコクピット内部に当たった弾は、精密機械の重要な部品をうちぬいた。

ショウが逃げ出すまでのわずかな間に、ミュージィは微笑みを浮かべながら、

「ほほほ!愚かもの。ほほほ!」

笑い声さえたてながら、左手にも拳銃を持ち、両手打ちで、正確に、ダンバインの急所ばかりを撃ち続けていた。オーラ・バトラーのどこを撃てば、その機能を失うかを、彼女は、婚約者のショット・ウェポンから、じゅうぶんに習っていた。彼女は、クラヴサン(注※)をひくように、しなやかな手つきで、両手撃ちを続けた。ミュージィの弾は、人間にも当たった。ショウ・ザマは、銃で我が身を撃たれる恐怖感にすくみあがり、弾丸がふとももを貫通した痛みを思い出したのは、何分も後だった。

(注※:クラブサンとは、ピアノに似た鍵盤楽器、チェンバロのことである。チェンバロはドイツ語で、クラヴサンは、同じ楽器をさす、フランス語である。英語ではこれを、ハープシコードという。アニメ「聖戦士ダンバイン」では、ミュージィが弾く楽器の名前を、英語のハープシコードで呼んでいたが、本作では、ひびきがよいので、フランス語の、クラヴサンで呼んでいる。)

ダンバインは空中へ逃げだし、ショウはじぶんの存命を確かめることは出来たが、メインモニターが破壊され、砲撃ボタンとその回路も破壊されていることも、同時に確認できた。ふとももの傷がいまさらになって、泣きたいほど痛み、飛行するダンバインはめくらになり、空爆はできなくなった。ショウは無線にむかって、泣きわめいた。ゼラーナに帰り着き、ダンバインを収納するのが、やっとだった。

ニー・ギブンは、悔しがって、眼下を見下ろした。恋人リムル・ルフトが、ルーザとミュージィにつかまったまま、盾とされている。城主の妻は、いやがるじぶんの娘の首をつかみ、背中をせっついて歩かせ、ゼラーナの攻撃目標へと、むかって行くではないか。

機械の館は火をあげ、半壊していたが、ゼット・ライトの部下、それも軍属ではない平民たちがおおぜい集まっており、バケツリレーで水をはこび、必死で消火活動をしていた。機械の館のあるじが、常日頃から、平民たちに慕われていたからこその光景である。守備隊兵士も、これ以上やらせないと、ホウガンや弓矢で、守りをかためている。そこへ、リムルの盾がやってきた。ニー・ギブンは、うなり声を味方に聞かせた。

「なんてことだ、機械の館を全焼させるまで、あと少しだったのに。ピネガン陛下との約束が、これでは、はたせない。せめて、ラース・ワウを炎上させたいが…。」

主砲を、ドレイク・ルフトの居城、ラース・ワウの本館に向けてみたが、黒ずきんの女2人は、リムルをこづいて見せ、ニー・ギブンの矛先に、この娘を連れていくぞという脅迫を続けている。ダーナ・オシーは、本館の一部を空爆したが、それ以上の攻撃は、ニーに制された。

膠着状態だ。戦力では、圧倒的に有利だったゼラーナ陣営は、手をこまねいてしまっていた。マーベル・フローズンは、ダーナ・オシーのコクピットで1人、舌打ちした。

「小娘ひとりのために、このていたらく!ニーって、ほんとうに使えない男だわ。…リムルなんか無視して、攻撃すればいいのよ。こんな好機は、またとないのに。」

ギブン家の正当な生き残り、ニー・ギブンが、敵方の正当な一人娘と、恋仲である。ただそれだけの理由で、ゼラーナ隊は、ピネガン王の命令どおりの攻撃が、できないでいる。とくに、ゼラーナのエースパイロット、マーベルは、ニー・ギブンと肉体関係をもつ情婦であったから、なおさら、にがにがしく思った。マーベルには、リムルにたいする嫉妬心は、以前には少しあったが、今は、たいして強い感情ではなくなっていた。丸腰の敵城を目前にして、リムルのことばかり考えている、だらしのない男。妖精を恋の伝達者に、17の処女相手に、子供っぽい文(ふみ)をとりかわして、一喜一憂している男。そんなニー・ギブンから、次第に、離れてゆく感情を、マーベルは感じていた。

彼女に、こうした感情の変化をあたえた、きっかけがあった。バーン・バニングスとの情交である。たった1度でも、ニー・ギブン以外の、たいそういい男の、味を知ってしまった女には、仕事の邪魔になる恋愛ごっこに興じている男は、とてつもなく、くだらない男にしか、見えなくなってしまっていた。

さて、どうする、ニー・ギブン。せっかく前線にドレイク軍の本陣が移動し、ラース・ワウが留守になったところへの奇襲なのに、リムルがそこにいるというだけで、空爆できないとは。

リムル・ルフトでなければ、いくらでも殺していいのに。

「そうだ!うまい手を思いついたぞ。」

ニー・ギブンの声が、無線機から、マーベルのダーナ・オシーと、キーンのフォウに聞こえた。

「俺の両親を殺した男、バーン・バニングスの家が、この近くにあるはず!そうだ、ドレイクの盟友、バニングス卿の屋敷を破壊すれば、ピネガン王への名目もたつ!」

ゼラーナ隊は、ラース・ワウを後にして、南東へと、バニングス邸へと向かった。バーン・バニングスの年老いた両親が、平和に暮らしている、青い屋根の、あの平屋の豪邸へと。

第61章更新後書き

前章へ  次章へ

「月下の花」目次2へ戻る

ガラリアさん好き好き病トップへ戻る