月下の花

第60章 激戦キロン城、ピネガンの奇策


早朝から、ドレイク軍は、キロン城への進軍を開始した。オーラ・マシンによる空爆にくわえて、湖水にもぐって、水中からの進撃も、同時に行った。陸上からは、古典的な騎兵軍団が、ひずめをならして進軍した。

水中隊の先頭は、青いビランビーのバーン・バニングスである。大きな湖の岸辺に位置するキロン城の土台は、石塀が、湖の底まで続いており、そこには、レッド・バーの砦と同じように、水中からの、オーラ・マシンの発進口があった。そこから先陣を切って出てきたのが、1機のダーナ・オシーであった。バーンは、ダーナ・オシーと、水中で斬り合ったが、パイロットが誰なのかが、わからない。

斬り込み隊長のガラリアは、赤いドラムロで、空爆隊の先頭に立っていた。ドラムロは、オーラソードをふるい、敵陣に襲いかかった。だが、空爆にたいする、反撃らしい反撃はみられない。ドレイク軍は有利だった。キロン城の屋上に、王家の住居である天守閣があり、ナムワンの格納庫があると、捕虜になったユリアとセザルから、情報をえていたからである。しかし、戦巧者(いくさこうしゃ)なピネガン王が、そこを見逃すはずがなかった。ガラリアがキロン城の屋上飛行場におり立ったのに、そこには、ナムワンもダーナ・オシーも、おらず、もぬけの空。

「うぬ、読まれている。ピネガンめ、ユリアとセザルを拉致したのは、キロン城の急所がこの屋上だと、あえて情報をもらすためだったのか?」

赤いドラムロにぴったりよりそう、青いドラムロの、トッド・ギネスも屋上に立ち、周囲を見わたし、首をかしげた。敵のマシンが、今のところ、水中のダーナ・オシーだけであることに、疑念を持った。

「ガラリア、おかしいぞ。こりゃ、レッド・バーの二の舞だぜ。水のなかのダーナ・オシーは、おとりだ。いやっ…もしかしたら、このでかい城全体が、おとりなのかもしれない。」

巨大なキロン城の上層部は、空爆をうけ、ところどころ崩壊していたが、住民は避難済み、オーラ・マシンもなしで、例によってガラリアたちは、不可思議なミの国の作戦に、翻弄されている感がつのった。水中のバーン・バニングスからも、無線がとんできた。

「ダーナ・オシーは、水中で逃げ回っているだけだ。これは撹乱戦法と見るべき。敵の本陣は、もはやキロン城にあらず!」

ドレイク・ルフトは、湖の水面に浮かばせた、ブル・ベガーの司令席にいた。ドレイクの左右には、参謀ミズル・ズロムと、ショット・ウェポンが立ち、この軍艦が、ドレイク軍の本陣であった。ドレイクは、前線からの報告を聞くや、

「偵察の隊を、八方に散らせ。陣形は亀の甲だ。」

紫と黄金の軍装をまとったドレイク・ルフトは、すっくと立ち上がり、全機に命令をとばした。領主の軍服は特別で、豪奢なマントが、くるぶしまで、ひるがえっている。

「我が軍は、敵に囲まれていると見る。東西南北、そして上空と水中からも!敵機、来襲に備えよ。」

空飛ぶドロの甲板で、マイクをにぎり、指揮をとるユリア・オストークは、ドレイクの命令を具体化し、部下に伝えた。

「無駄弾をうつな。敵機をさがせ。森林にかくれているかもしれない。水中に別の要塞があるかもしれない。ナムワン、ゼラーナ、ダーナ・オシー、そしてダンバインの機影を見つけよ!」

量産化され、いまは軍に3台ある、赤いドラムロの1機には、セザル・ズロムが搭乗していた。四方八方に目を配って飛んでいたが、腑に落ちないことばかりだ。昨夜まで、軍人でひしめきあっていたキロン城を、セザルは、じぶんの目で見てきたのだ。それが、今朝は空っぽであるとわかると、有能な彼は、我が軍は、劣勢なのではないか?と、考えはじめた。

「やっぱりさ。僕とユリア嬢を拉致して、ミの国にスカウトなんかしたのは、あれは、わざとだったのさ!ピネガンは、僕たちにキロン城の偵察をさせて、そして帰した。城の様子を、報告させるためにさ!ガラリアさま、聞こえますか。」

「どうした、セザル。」

セザル・ズロムは、戦慄すべき予測を、話した。

「ガラリアさま、そして、この無線を聞いてる全機へ!敵国ミの軍は、昨夜のうちに、北方にある、姻戚のラウの国まで、撤退したと見るべきかもしれません。連中のお得意の戦法さ。レッド・バーのときと同じで、ひきつけておいて、逃げるのさ。僕たちは…罠にはまったのさ!」

総指揮権をまかされたバーンのビランビーが、戦闘意欲のまったく見られないダーナ・オシーを尻目に、水中から浮上した。青いビランビーが、赤いドラムロを見上げ、セザルの意見に、呼応した。反発心をあらわに。

「しかし、砦ひとつならばともかく、国王みずから、王城を捨てるなど、考えられぬ。キロン城をあけ渡せば、ミの国は、我が軍が陥落させたことになるのだぞ。首都の攻防戦もせず、他国に逃げて、ミの国に、なんの利があるか?」

すると無線から、高いトーンの男性の声が、ひびいた。地上人であり、知識人である米兵、トッド・ギネスの声だ。

「バーン、地上の戦争の歴史に、それをやった君主が、いるんだぜ。これと似たような作戦だ。帝政ロシアという、伝統ある王家がな、ナポレオンってゆう男が指揮する軍の、侵略をうけたときだ。ナポレオンは、身分の低い階級の出だったが、フランスという大国の皇帝にのしあがった、軍事の天才だった。ナポレオンをむかえうつ、ロシアの皇帝、アレクサンドル1世は、なんと、自分の城と、首都のモスクワを捨てちまった!市民をみんな引き連れて、ナポレオンがやってくるより先に、逃げちまったんだ。遠路を苦労して行軍してきたナポレオン軍は、物資をモスクワで補給できるとふんでいたのに、ロシア皇帝は、その略奪対象物を、なくしてしまうという、驚くべき作戦にでた!ナポレオンは、もぬけの空になってる首都に到着し、呆然としていたら…。」

その続きを、ブル・ベガー司令席の、ドレイクのかたわらにいた、ショット・ウェポンが話した。ドレイク軍の全兵士が、無線機から流れてくる、地上の戦争実話に、聞き入っていた。

「その夜、モスクワに置かれたナポレオン陣は、なにものかによって、放火された。首都モスクワは、火の海と化した。ロシアの皇帝は、じぶんの国の首都を、敵軍もろとも、焼き払ったのだ。歴史に名高い、恐るべきロシアの、焦土作戦(しょうどさくせん)だ。」

この話しを聞いた兵士たちは、おのおのの持ち場を、再度、点検し、敵の姿の、まったく見えないことに、恐れおののいた。ビランビーのバーン・バニングスは、水中にもどり、ダーナ・オシーを探した。敵軍に、2機はあるはずのダーナ・オシーの1機、さきほどまで泳ぎ回っていた機体は、なんと、湖底に沈み、死んだように動かなくなっていた。

「まさかっ?!」

ビランビーが、ダーナ・オシーのコクピットを蹴ると、ハッチが開いた。無人だ。

「自動操縦で、ああも動けるものではない。このダーナ・オシーのパイロットは、わたしが空中に出ていた間に、泳いで逃げたのだ!ええい、さがせ!」

キロン城の屋上で、斬り込み隊長のガラリア・ニャムヒーは、みなの報告を吟味していた。焦土作戦だと?地上の皇帝には、傑物がいたものだ。ではピネガン王は、キロン城から撤退し、王妃の父がおさめるラウの国に、軍を集結させていると見るべきか。ミの国だけでも強敵なのに、ラウの国まで同盟軍になったら、敵の戦力は強大になる。ラウの国王、フォイゾン・ゴウは、剛勇で知られている。義理の親子関係にある、ミの国のピネガン・ハンム王と、ラウの国のフォイゾン・ゴウ王は、もしかしたら従前から、われらドレイク軍の侵攻に備えて、同盟をむすび、今日のこの日の作戦を、とりきめていたのかもしれない。

キロン城を、あけわたしたのは、計算ずくだったのか…。それは、そうかもしれぬが…おかしい。私たちは、なにか重要なことを、見落としている。

ブル・ベガーが、キロン城の屋上飛行場に、降下した。オーラ・バトラーからおりたバーン、ガラリア、トッド・ギネスが脱帽し、敬礼して、領主を、出むかえた。一応これは、キロン城を手中にした式典、の、ようなものであるから。

だが、奇妙な光景である。昨日まで、敵の戦艦ナムワンが格納され、敵のオーラ・バトラー、ダーナ・オシーが2機、立ち並んでいた同じ場所に、今日は、紫色の戦艦ブル・ベガーがあり、青いビランビーと、赤と青のドラムロが立ち並んでいるとは。そして昨日の、ピネガン・ハンム王と交代して、今日はドレイク・ルフトが、同じ場所に、軍靴をふんでいるとは。なんの労苦もなしにだ。

敵国の王城におり立ったドレイクは、ショット・ウェポンと、ミズル・ズロムをひきつれていた。ドレイクは城を見わたしてみて、やはり、信じられないというおももちだった。

これほど大規模な、じぶんの城を、わしならば、捨てられるか?

そして、さきほど無線機ごしに聞いた、焦土作戦とやらの話しを、もいちどせいと、2人の米国人男性に要求した。トッド・ギネスとショット・ウェポンは、フランスのナポレオン軍と、帝政ロシアの戦いについて、概略を話した。

バーン・バニングスは、水中から逃げた、ダーナ・オシーのパイロットを、部下に捜索させているむね、報告した。

セザルの赤いドラムロと、ユリア率いるドロ隊は、偵察のため、上空を飛び続けていた。

ガラリアは、中身のない報告ではあったが、変だと思うと、率直にドレイクに言上した。

「なにが、変だと思うのだ、ガラリア。抽象的でよい、ゆうてみい。」

「はい、お館様。ピネガン・ハンム王が、戦力を保持したまま、王妃の父、フォイゾン・ゴウ王の、ラウの国と合流したと見るのは、ただしいように考えます。もともと姻戚関係がある、ミの国と、ラウの国が、我が軍に対抗するために、あらかじめ軍事同盟をむすんでいたことは、戦略的に、じゅうぶん、ありえます。しかし、それだけでしょうか。キロン城を捨てるには、なにかほかの利益…住み慣れたじぶんの城と、引きかえにしてもよいと思えるような、ほかのなにかを、得るためではないかと…。」

しゃべりながら、ガラリア・ニャムヒーと、そしてドレイク・ルフトは、まったく同時に、ひらめいた。ドレイク・ルフトは、じぶんの失敗を認めることに、素直であった。恥も外聞も、面子も、どうでもよかった。戦略家に大切な特性は、機をみるに敏であることだ。ドレイク・ルフトは、顔を青くし、大声を発した。

「ガラリア、いま、そのほう、なんと言った?!」

「は、はい。住み慣れたじぶんの城と、引きかえにしてもよいと思えるようなものと…。じぶんの城と…。お、お館さま、もしや!」

ふるえる声で言いながら、ガラリアは、最悪の戦況を、悟った。そして驚愕し、お館様と、目を見合わせた。ドレイク・ルフトは、キロン城の屋上なぞに、来てしまった、おのが愚かしさを、悔やんでも、遅かった。南方をふりむき、悲鳴に近い命令を発した。

「ラース・ワウに、もどるぞッ!一刻の猶予もならぬ。斥候を出せい、いちばん早足の機械はどれかッ!」

騎士団長バーン・バニングスが、おののきながら即答した。

「ビランビーであります、ドレイク様、すぐに飛びます!」

「ゆけい、バーン!わが城が、そうよ、リムルが危ない!おのれッ、ピネガン・ハンム、めくらましばかりの、卑怯ものめが!」

ドレイク・ルフトは、まんまと、ピネガン・ハンムに、はめられたのだ。その時刻、ラース・ワウには、ゼラーナとダンバインが、奇襲をかけていた。迎え撃つ兵力は、わずかな守備隊兵士だけで、オーラ・マシンは、出はらっている。敵のねらいは、リムル・ルフトの誘拐。そして、ドレイク・ルフトの居城、ラース・ワウの破壊である。

第60章更新後書き

前章へ  次章へ

「月下の花」目次2へ戻る

ガラリアさん好き好き病トップへ戻る