「月下の花」

第16章 2人目の聖戦士


 今日、バイストン・ウェルは、月の満ちる日である。地上で云う、月に一度の満月の晩か、或いは、月の光が消えて無くなる、新月の晩か、どちらに当たる日なのかは、解釈の分かれる処である。いずれにせよ、28日に一度、「月」の周期の境目に当たる日、女性の月経で云うなら、次のターンオーバーが始まる日、それが、月の満ちる日である。
 この日に限り、エ・フェラリオ族だけが、地上界とバイストン・ウェルとを結ぶ、唯一の通路、オーラ・ロードを、恣意的に開く事ができる。ガラリアの住むラース・ワウ城の、塔一つを改造した、エ・フェラリオ専用牢獄が、水牢である。

 この水牢に、足掛け3年も、飼育されている、エ・フェラリオ、シルキー・マウは、水草の生い茂る水中から、水面に反射する夜の灯りを見上げた。

「今夜は、月の満ちる晩だわ。この前、ここから引きずり出されて、無理やりオーラ・ロードを開かされたのは、何月前だったかしら?そうね、確か、24ヶ月前だったわ。あれから一歩も、わたくしはここから出られない。ナックル・ビィは、あれからどうなったのかしら…ジャコバ様はどうされているのかしら…ああ、水の国に帰りたい。」

 シルキーは、己が軟禁生活を嘆き、涙を流した。水の中、エ・フェラリオの涙は、アラビックヤマト糊のようなゲル状となり、水面へと浮んでいった。水牢の番兵たちは、水面に溜まったゲル状の汚物を、網ですくって掃除しなければならず、不平をたらした。

汚ねーなー、泣くんじゃねーよ、俺たちの手間が増えるだろうがよこのボケカス、と、シルキーを罵った。

水中に住むエ・フェラリオは、餌は食さず、おしっこもウンチョスも、排泄しないが、このゲル状の涙は、放置すると悪臭を放つので、頻繁に泣かれると、頻繁に掃除しなければならない。

軟禁シルキーは、泣いては怒鳴られ、怒鳴られてはまた泣くという、エンドレス・リフレイン・リピート地獄に暮らしていた。

 コモンたちの夕食が終わった頃、シルキーは、水面の上方、水牢の扉が開かれたのを、見た。番兵が入って来る時刻ではない。

「なにかしら。涙の掃除は、いつも朝ですし。ここに連行された最初の時期には、物珍しそうに見物に来たコモンたちも、最近は、誰も来なくなったし。こんな時刻に、なに?まさか…」

水中のシルキーを、見下ろしたのは、いつもの番兵ではなく、はたして、青い長髪のバーン・バニングスと、青い短髪の、ガラリア・ニャムヒーである。シルキーのまさか、が当たった。長髪を、肩から、橙色の制服の、胸元へ垂らし、かがみ込むバーンが、

「よし、檻を下ろせ。シルキー・マウ、檻に入れ、よいな」

と得手勝手に命令した。続けて、ピンク色の制服を着たガラリアが、

「なあ、バーン。あの、バカでかい水草は、なんのために入れてあるのだ?シルキーが食うわけでもあるまいに。」

と得手勝手にお喋りした。バーンがぶっきらぼうに答えた。

「観賞用だ。番兵どもが、金魚鉢に金魚だけでは、殺風景だと言うのでな」

「フゥーン」

シルキーは、今に始まったことではないが、これらコモンたちの、サカナ扱いの態度に、深く嘆息した。そして、夜、檻に入れられ、中庭に引きずり出されて、要求されることと言えば、あれしかないのである。




 暗い中庭には、ドレイク軍の要職者が、勢ぞろいし、今夜の行事を心待ちにしていた。芝生に立つミズルは、穏やかに、ゼット・ライトに話し掛けた。

「ゼット様。あなたを召還した日と同じ、この世界では、禁を破ると畏怖される行いを、これより始めます。あなたは随分、ここの暮らしに馴染まれて、我らにご尽力下さっており、感謝に耐えませんが、いかがかな、地上の同朋を、自らと同じ宿命に呼ぶお気持ちは…」

黒い肌のゼットは、丈の短い、青い制服の汚れを気にしながら、ハハ、と軽く笑った。

「同朋と言われましてもねえ。地上には、約50億人の人間がいます。俺の知り合いならともかく、縁もゆかりもない者には、ま、同情はしませんよ。俺もそうでしたが、これも運命かなーと、あきらめて、せいぜい皆さんのお役に立てるように、働いてもらいたいものです。」

ゼットにしてみれば、2年前、この中庭で出会った美しい女性、ガラリアへの恋情ゆえに、この城で働く意欲が、もたらされているのだろうと、ミズルは思っていた。地上人の、機械技術者を欲しいのは、ショットもゼットも擁さない他国である。

特に、同盟国クの国王、ビショット・ハッタは、以前、ゼット・ライト殿を我が国に招聘したいと、申し出をしたことがあった。それを、ゼットは丁重に断った。他国へ行けば、ショットの下に甘んじる事はなかろうに、ビショット王の提示した、ルフト家よりはるかに良い条件を、ゼットはまるで執着せず、蹴ったのである。

 中庭に、シルキー入りの四角い木製檻が、引き出された。中庭を見下ろす2階のバルコニーに、ドレイクとルーザがおり、バーンとガラリア、おおぜいの下士官たちが、帯刀し、シルキーの檻を警護している。

騎士団長バーンが、声高らかに命令した。

「これより、オーラ・ロードを開く!シルキーの立ち位置、ここ。地上人の落下点、だいたい、ここらへん。地上人は、例によって、ここはどこ、わたしはだれ状態であろうから、要注意!警備隊下士官は、外部からの妨害者が潜入せぬように、厳重に見張れ。」

続けて、副団長ガラリアが、ソプラノの甲高い声で、号令した。

「守備隊下士官は、地上人の逃亡阻止、暴れる奴は、殺さない程度に取り押さえよ!ここはどこ、わたしはだれ状態の重症者には、救護班、待機。覚醒剤、睡眠薬、各種投薬準備のこと。」

聞きながらゼットは、俺の時も、こういう扱いだったよな、と苦笑いしていた。

 リムル・ルフトは、ドレイクらとは離れた、別の、中庭のよく見える窓辺におり、両親たちと一緒にいたくなかった。だのに、傍らには、お目付け役のミュージィ・ポウが、常について来る。リムルは、ウザい先生に、

「どうしてついて来るのですか、わたしは、オーラ・ロードが開くのが、珍しいから、見たいだけです。あの、見てるだけよ。」

と訴えたが、既に、ショットの懐刀である身分に威信を賭けたミュージィは、静かに笑うのみ。

「姫様が、今夜の出来事を、チャム・ファウに伝えるのではないかと、わたくしは御心配しておりますのです」

リムルとニー・ギブンの、伝書ミ・フェラリオ、チャムが、度々ラース・ワウに出没する。特に今夜は、敵陣営のチャムが、偵察に来るに違いなく、守備隊長ガラリアも、ミュージィも、皆が警戒していた。

地上人ショット・ウェポンは、黒いドレスの裾が、シルキーの檻に触れるほどに近付き、檻の中でうなだれるエ・フェラリオに語りかけた。かがみ込むショットの顔面は、逆光で暗く沈んでいるが、碧眼だけが、鋭く光ってシルキーを威圧した。

低い声で、ショットは、こう告げた。

「シルキー。今回の注文だ。人数、最低3名、多い分には何人でも構わん。年齢、満16歳以上、35歳未満、性別は問わず。健康状態は良好、これは必須条件。国籍不問、但し先進国優先採用だ。それから、今回は戦闘員募集であるから、軍隊経験者優遇、学生なら体育会系で、」

黙ってうつむいていたシルキーは、おもむろにショットに顔を向け、不愉快に緑色の眉をゆがませて、吐き出した。

「あのね、ショットさん。前回も言いましたけど、オーラ・ロードは、開くだけで精一杯なものなのです。前のときは、やれ工業系大卒、学位保持者だの、IC専門職経験者優遇だの、まじめなエンジニアさん大募集だのと、おっしゃって。いいですこと?わたくしは、単なるエ・フェラリオであって、人材派遣コンサルタントではありませんのよ。そういうご注文なら、リクルート社にでも、発注なさったらいかがかしら!」

「そう言って、シルキー、ゼット・ライトの時は、見事にわたしの注文通りの、人材を呼んだではないか?では、今回はこの条件で、やってくれ。」

 そうして、シルキーは、守備隊の下士官2名によって、檻から引きずり出された。暴れるシルキーの右から押さえ込むのは、ガラリアに惚れているハンカチ君、左からは、黄緑色の髪、ユリア・オストークである。脆弱なシルキーが、暴れるといっても、たいした力ではないから、ユリアたちの仕事は、さほどたいへんではない。

 シルキーにオーラ・ロードを開かせるために、最もたいへんな役目を、おおせつかった、下級兵、3名の男が、ゆっくりと囚われのエ・フェラリオに近付いてきた。ハンカチ君とユリアに、取り押さえられているシルキーは、

「いやです、やめてください!」

と、既に怯えて、叫んだ。3人の下級兵は、皆、ヘルメットをかぶっており、闇夜に両目を伏せている。

 この3人の男たちの、胸中は、たいへん複雑だった。バーン・バニングスが、3人に号令を発した。

「では、始めるぞ。セクハラ班!やれ。」

下級兵の3人は、騎士団長の命令にも関わらず、オドオドし、即座に動かない。

バーンは、今、中庭にいる男全員に共通した、同情を、彼らに抱いた。

(連中の気持ちは、わからんではない。シルキーのボデーに、合法的にワイセツ行為が出来るとはいえ、ガラリアやユリアや、女性がおおぜい、見ている前ではなぁ。恥ずかしいやら、嬉しい気持ちを顔に出さぬように、でも勃起してしまうし、それを見られてしまうし、いくらなんでも、これは、たいへんだ。

水生のエ・フェラリオには、呼吸困難に陥らせる責めが、当初、提案された。ところが、滞空時間が肺魚並であるから、時間を食うし、責めでシルキーの体力を消耗してしまい、目的が達成できないので、この方法をとる事にしたのだが。


結構、オンナとして見たらいい感じに美人な、シルキーに、あんなことやこんなことを、衆目の中でスル役目、それが、セクハラ班なのだ!)

このように、同情しながらも、バーンは、再度命令せねばならなかった。

「セクハラ班!やれ。やるのだ。ゆけい、命令である!…遠慮するな…」

 業務上、やむをえず、シルキーに歩み寄った男3人は、取り押さえ役の、ユリアが間近に見ているので、わざとらしく、

「好きでやってるんじゃないんだ」

とか、

「こんな役だなんて、貧乏くじ引いたよな」

とか、つぶやきつつ、シルキーの、緑色のドレスの上から、オッパイをつかむわ、スカートの中に手を入れるわ、されているシルキーは、

「あなた方、正気ですかーーーーーーーーーーーッ」

と叫ぶ。それを、やや遠巻きに見下ろすバーンは、

「イヤならば、オーラ・ロードを、開くのだ、シルキー。(…わたしの役も、かなり、イヤなのだが)」

と脅迫した。バーンの、傍らに立つガラリアは、今、中庭にいる女全員に共通した、素朴な疑問を口にした。

「バーン。おい、バーン?もう、いいだろう。そもそも、セクハラ班は、従わなければ触るぞと脅すだけで、充分なのではないか。シルキーは、わかりました、開きますーと、言っているではないか。ほら。」

「あ?あ、あぁ、そうだな。よし、セクハラ班、やめい!」

そんなわけで、予定立ち位置に、シルキーが立った。

たいへんな役目を終えた、セクハラ班の3人は、中庭からの退出を命じられ、振り返りながら、ひそひそ、

「お前、どうだった、股のあたり。ぱんつはいてたか。」

「はいてなかったーーーーーぁあ 毛が生えてたーーーーあぁあ」

「まじかよ、いいなぁ、くっそう、俺オッパイだけ。でも、よかった、興奮したよなぁ」

「ところで、せくはらって、なんの略だっけ、地上語の、セク…なんだっけ」

「えーと、確か、セクシーなはらたいらの略だったと思う」

「はらたいら、って、なんだ?」

とかなんとか、ささやきあい、立ち去った。




彩度の低い、深い緑色のドレスに、蛍光黄緑色のロングヘアーの映える、セクハラ後シルキーは、両の手の平を、胸の前で、合わせ、忍者がドロンするときの指の形で、念じた。

「とりあえず、オーラ・ロード、開いてちょうだい。なんでもいいから、地上人、来て。ああ、こんな生活、もういや。」

ショットが叱責する。

「まじめにやれ!戦闘員募集告知を、言わないか。」

「あー、もう。わかりましたわよ。えーと、軍隊経験者―、体育会系さんいらっしゃーい」

ショットが、更に命じる。

「高給優遇、寮完備だと言え。」

「あー、はいはい。給料いいんですってよ。寮はバストイレ、まかないつきですのよ、戦闘員向き人材、来い、来い、ヨッハッとなッ」

すると、バイストン・ウェルの天空、シルキーの立っている、まっすぐ上の、夜空が、一点に集中し暗雲がシワシワになり、巨大な肛門のようになった。この現象を初めて見るゼット・ライトは、オオッ!と、驚愕の声をあげた。

次に、肛門の中心の、黒い穴が、透過光の、いや、オーラの光りで、ひときわ明るく光ったかと思うと、瞬間、光りの帯が、バーンが予定していた落下点まで、大蛇が如く伸びた。光りの帯は瞬く間に消え、鱗の光る粉と、白いもやの中、人間が、1人、ラース・ワウの地面に、どすんと落ちた。

 皆が、どんな奴だと、注目する中、バーンとガラリアが、責任者として、横たわる地上人の傍らに立ち、覗き込んだ。ガラリアは、左の腰に携えた、剣のつばに、手を置き警戒しながら、観察した。

「気絶しているようだな。男だ…黒い髪、中途半端な長さだ。男のくせに、おかっぱ頭?上着も黒、ズボンは青色。安っぽい服装だな。」

バーンも観察する。

「ひどい受け口だ。そして地味な顔だ。地味すぎて、若いのか、老けているのか、よくわからぬな。おい、こら、起きろ」

バーンは、倒れている地上人の、頭をブーツで蹴った。首を横に向かされた男は、目を閉じたまま、

「ううーん、かあちゃん、もう食えねえ。またピロシキかよ〜、ピロシキはもうおなかいっぱいだよ〜」

寝言らしい。ピロシキ、と聞いたショットは、

「ソ連の者か。に、しては、白系ロシア人ではない。」

と、やや不愉快そうに眉をよせて言った。ショットとは関心の方向が違うゼット・ライトは、白人でないからと不満げな地上人仲間を、内心軽蔑しながら、続けて言った。

「アジア系ソヴィエト人だよ、たぶん。服装は、都会的だな。ブリヤートあたりのアジア族の多くは、カスピ海や黒海周辺の工業地帯に出稼ぎに来て、定住する者も多いらしいし、こいつもその口かもな。それにしても…英語を喋ってる。やっぱりか。バイストン・ウェルでは、全ての地上語は、俺の母国語に翻訳されるらしい。もっとサンプルがほしいな」

学者ゼット・ライトは、学究に余念がない。

ショット・ウェポンは、白人ではなかったのが、たいそう気に入らなかったが、ソヴィエト連邦の成人男子ならば、軍役経験があるかもしれない。シルキーのコンサルタントぶりはなかなかだ、と思っていた。

 新入り聖戦士指導係りのバーン・バニングスは、まだ寝ている地上人の、黒い髪の毛を左手でつかんで、上半身を引き起こし、右手で、男の頬に3、4発ビンタを喰らわせた。

「おい、起きろ、その方。おい。」

ソ連の地上人は、細い目を、ぼんやりと開け、バーンを見とめたようだ。

「とうちゃん…殴んないでくれよー。もう盗み食いはしねえよー」

「とうちゃんではない。おい、いいかげんに、目を覚まさんか。お前1人に、そうも手間はかけられんのだ。」

まったくである。筆者、バーンに激しく同感である。同様に感じていたガラリアが、甲高い声で、

「もうよい、おーい、救護班!このまま担架で運んでしまえ。」

と命じた。白い軍服の、衛生兵数人が駆け寄り、まだ寝ぼけている男を、担架に乗せた。バーンが、記録係りの書記を呼び寄せた。書記は、メモ帳と羽ペンを持っている。担架の男を覗き込んだバーンは、男の耳たぶをキリキリ引っ張りながら、詰問した。

「名前だけ、言いたまえ。おい、お前だ、おまえ。名はなんというのか?」

地上人は、ぼんやりした目を薄く開き、まだ寝言をつぶやいてた。

「トカマクだよ…トカマク。」

「氏名を名乗りたまえ。姓は?トカマク、なんだ。」

「トカマク・ロブスキーだよー。とうちゃん、息子の名前忘れたのかよー」




トカマクが連行され、シルキーは、再度、立ち位置に立たされ、同様にオーラ・ロードを開くため、念じた。見守るガラリアは、バーンのすぐ後ろに立ち、ガラリアの更に後方に、ユリアが立っている。ガラリアが、ユリアに言いながら、バーンにも聞こえる声で、話した。

「聖戦士と言えば、バイストン・ウェルが危機に瀕したとき、地上から降臨する、偉大な戦士と本には書いてあるが、あの伝説は、ウソだな。さっきの男を見て、どう思う、ユリア。そのへんにいるヤツだよな。」

「ええ、まるで普通のヤツですわねえ。地味。地味です。いやむしろ醜いです。」

バーンは、女の子たちのお喋りに、聞き耳を立てながら、呪文を唱えるシルキーを見ていた。ガラリアはまだ喋っている。

「そうだよな、ラース・ワウ図書室の本には、太古の昔、バイストン・ウェルに、現れたという聖戦士は、凛々しく勇ましく、キングオブ美男子だとあったが、全然違うよな。」

「ええ、ちょっとガッカリですわね。あの顔で、我々コモンより、オーラ力が強いと言われた日には、冗談は顔だけにしてって感じですわあ。」

女2人の会話を、背中で聞いているバーンは、

(わたしは、恋愛運には恵まれていないが、顔には恵まれていて、まだよかったな)

と思っていた。

2人目の、聖戦士がやって来る、上空よりのオーラ光が、トカマクと同じ落下点に届いた。濃い、白いもやが、漆黒の地面に流れた時、最初に歓声をあげたのが、ショット・ウェポンであったのが、ガラリアとバーンを、少々驚かせたのだった。

次の、男…成人男性である事は、遠目にも、2階にいるドレイクにもすぐわかった。男は、中庭の黒い土色に沈む、深い緑色の上着を着ており、そしてうつ伏せに倒れていたが、ショットは、

「金髪!プラチナ・ブロンドだ。白人…おお、軍服だ、あの軍服は!」

なに、軍服?ガラリアは、ショットの、色めき立った言葉から、この男は、地上の軍人なのだとわかり、

(暴れたら、手強いかもしれぬ!うむ。)

と、自分も軍人らしくと、剣をいつでも抜けるよう構え、うつ伏せの男に駆け寄った。

バーン・バニングスも、ガラリアと同じ気迫で、我先にと、近付いた。

「地上の戦士か。どのような男だ…」

バーンが、ガラリアの一歩前に出た。バーン・バニングスと、倒れたままの、地上人との距離は、2メートルほど。

すると、伏せていた男は、自ら、ゆっくりと起き上がった。両腕で上体を起こし、顔は地面を向いている。白金色の髪の、地上人が、上半身だけをねじって、胸元がこちらを向くと、その上着の胸に刺繍された、金糸の文字と階級章が…

またも声をあげたのはショットだった。

「アメリカ空軍兵か!いいぞ、これはいい買い物だ。でかしたぞ、シルキー・マウ!」

ショットのはしゃぎようを、バルコニーより見下ろすドレイク・ルフトが、興味を持ち、欄干から乗り出して尋ねた。

「ショット、そなたの国の者か?軍人なのだな。そのように、よい者か。」

「ドレイク閣下、わたしの祖国の、空軍の兵士であります。空の兵士、つまり生粋のパイロットです」

 ショット・ウェポンの絶賛をあびた男。地上の、空の兵士。これらの言を聞いて、心中の闘志を、激しく燃やしたのは、バーン・バニングスである。地上人は、仰向けになっていたが、まだ、座っている。顔面は、うつむいて、片手で、両目を覆っているので、面相が見えない。バーンは、

(どのような面構えの男か、おもてを見せよ!)

意気込み、だが静かに、半覚醒にあるらしきその者に、言葉を、かけた。トカマクの時より、ずっと紳士的な声音で。

「地上の方。わたしが、わかるか。目を開かれよ。」

 プラチナ・ブロンドを短く刈り上げた、その地上人は、こすっていた目から、右手を、離した。

男と、男とは、お互いの目を、見た。

この時。

バーン・バニングスは、

(この、垂れ目の男とは、気が合わぬ。)

と感じた。地上人の男は、

(この、ロン毛のにいちゃんとは、気が合わねえなァ。)

と感じた。

 ひとめ惚れ、の逆の場合がある。それが、この2人の出会いであった。初対面の印象が、この<ひとめ嫌い>であった場合、彼らがこの先、仲の良い友人になれる可能性は、かなり、低い。

 バーンは、この地上人への、直感的な感想は、さておき、業務上の口上を、殊更、静かに話した。

「地上の方…突然の事で、意に添わぬであろうが、わたしの言に従っていただきたい。まずは、此は貴公の夢ではない。貴公に話しておる、わたしは、バイストン・ウェルという世界の騎士である。わかるか?夢ではないのだ。」

 すると、白金色の髪よりもっと白い肌、顔色に生気をみなぎらせた地上人、まるで怯えも、恐れも持たない、さわやかな笑顔を見せた地上人、青く澄んだ瞳を、にやけた垂れ目に転がす地上人は、軽やかに軽やかに、明るく高く、こう言ったのである。

「そりゃあ、夢じゃぁないだろうぜ!そこにいる、いかした女の子が、まぼろしだったら、抱けやしねぇ!せっかく、彼女に出会えたってのにさ、夢だったなんて、そりゃーご勘弁願いたいねェ。夢はベッドで見るもんじゃぁーない、ベッドで実現させるもんだからなァ!ねっ、彼女。」

バーンの真横に立っていたガラリアは、

(誰のことだ?)

と自分の後方を振り返った。いかした女の子?彼女?ユリアもシルキーも、ここからはだいぶ遠方にいる。

バーンは、帯刀を握り締め、その手を、既に、怒りで振動させていた。

(なん…なんだ、こいつは!話しかけているのは、わたしなのに。確かに、わたしの目を見たくせに、敢えて無視した!そして開口一番…女に、ガラリアに。なんという、不埒なやつ!)

ガラリアが地上人を向き直すと、軽口が、彼女にたたみ掛けた。

「君だよ、君!ショートヘアが、似合うねぇ。ショートは、美人の特権なんだぜ、君みたいな。ねえ、なんて名前だい?俺はトッド・ギネス。トッドって呼んでくれ。よろしくっ!」

え?私に言っているのか、とだけ理解できたガラリアに、トッドは投げキッスをして見せたのだった。

ガラリアはといえば、ただただ、呆気にとられた。

今夜のガラリアは、先日よりの、バーンへの失恋、嫉妬、この苦しみに耐えるためには、やはり軍務に没頭するしかないと考え、重要な行事である聖戦士召還へ、自分の任務遂行へと、意識を集中させていた。

そこへ、この地上人の態度である。いきなりバイストン・ウェルへ落ちた地上人ならば、驚愕のあまり暴れるか、気絶するか、と警戒していた。しかも地上の戦士と聞いた。どのように勇ましくたくましい者かと思ったら。

(なん…なんだ、こいつは。驚かされたのは、こっちだ。

この男。自分がおかれた状況に、抵抗するどころか、すぐ私に目をつけて、からかって見せるとは。

…いかしてるとか、美人とか…ベッドとか…任務中なのだ、そういう、気持ちが、変に、揺るがされるような事、言うな…そんな明るい笑顔で。なんという、奇妙な男だろう?

地上人は、ショットやゼットのように、どちらかと言えば知性的で、物腰の穏やかな人物しか知らなかったが、この男は、まるで性格が違うようだ。いいや。地上人だから、ではないな。

私が、今までに、出会った事のない、タイプの、男のようだ…)




ショット・ウェポンは、3人目を呼び込もうとしているシルキーを背にし、米軍パイロットと肩を並べ歩き、親しげに話していた。

「驚かされたよ、トッド・ギネス。君は、躊躇しないのだな。恐怖感はないのか?ここは異世界、バイストン・ウェルだ。地球上ではないのだよ。」

まろやかなキングス・イングリッシュを話すショットに、トッドは屈託無い笑顔を見せ、ゼット・ライトと同じ地方のなまりの英語で、遠慮会釈なくお喋りするのだった。

「さぁねェ。そりゃーまァ、まだよくわかんねェけどさ、ショットさんって言ったっけ?詳しく説明してくれるんでしょ、あんたがさ。あんたは、アメリカの、どこの生まれだい?」

ショットは、同国人に、自分の出身を問われる事を、嫌っていた。カリフォルニア州だ、とだけ答え、傍にいた守備隊下士官に、

「お前、こちらの聖戦士殿を、寝室へご案内しろ。トッド・ギネス、今夜はまず、ゆっくり休みたまえ。空腹ならば、夜食も、酒も用意させる。」

トッド・ギネスは、自分が落下した地点を振り返り、青い髪、地上には無い、珍しい髪色の男女2人を、じっと眺めながら、

「見学してちゃ、いけないかい?俺は、今日、ここに連れて来られた2人目なんだろ。次の犠牲者!ははん、地球上、いいや、地上っていうのか、故郷から、永久ぅ〜にオダブツになる奴の、ビックリしたツラが見てェや。」

カリフォルニア州出身の地上人は、マサチューセッツ州出身の地上人に、それは遠慮してくれ、わたしの顔を立てて退出してくれんか、と丁寧に話し、トッドは、

「はいはい。了解。じゃあ、バイストン・ウェルとやらの、酒をいただくとしますかァ」

と言って、手抜きの敬礼をし、下士官2名に連れられて、中庭から、立ち去った。

トッド・ギネスは、バイストン・ウェルに来て最初に、視界に入って来た、青い髪の、男と女を、何度も振り返っていた。

(あいつ。最初に目が合った男。なんだろうな、ひとめで、いけ好かねェって思ったぜ。

そいつに、寄り添って、立ってたあの子。

もろ、俺のタイプだなァ、彼女。名前を聞いてないが、まあ、明日のお楽しみにとっておくかァ。

…そしたら、あのロン毛のにいちゃんだよ。俺が彼女に、挨拶したら、とたんに目の色変えやがって。

あれは、同じ色の髪の毛だし?兄妹かな?兄貴なら、お怒りごもっともだが…そうでなかったら…

ハハン。なぁるほどぉ。あの子にベタ惚れかい、にいちゃんよぉ。

あの女の子もな…一生懸命、あの男に寄り添って。剣なんか持っちゃって、女性兵士か?

面白そうなところだぜ!バイストン・ウェルってのは。とりあえず、いい女がいるってだけでラッキーってもんだ。)




去り行くトッド・ギネスを、下士官たちは、好奇の眼で、しげしげ眺めた。シルキーに近く立ち並ぶ、軍の要職にある高官たちは、もう次のオーラ・ロードが開かれようとする空の方へ、視線を向けていた。が…

その中の、1人。ただひとり、ミズル・ズロムだけは、トッドを、トッドだけを、視界から消えてもまだ、見つめていた。

普段、ミズルは、任務中にあって、感情の高ぶりを露わにする御仁ではない。

 だが今、ミズルは、心の底から、おびえていた。

 老獪な騎士、いつもは穏やかな紳士の、足元は恐怖に震え、広い肩は恐れおののきしぼみ、紫の制服は、りんどうの花がしぼむように胸を包んでいた。その青い瞳には、子供の頃から、ミズルをよく知っているガラリアが、一度も見たことのない、涙が。涙が浮んでいた。

それは、信じがたい現象に遭遇した者の、怖れの涙だった。

ミズルの、この尋常でない様子に気がついた者は、中庭には、いなかった。

ミズルは声も出ず、自分の前に、バイストン・ウェルに出現したトッド・ギネスという男に、戦慄していた。

(あの若者!あの髪の色、あの顔、そしてあの垂れ目…なにより、あの声が…これはなんという事だ?!あれは、あの男は、まるで、まるで…)




 トッドを見送って来たショット・ウェポンは、もといた、ゼット・ライトの傍らに戻り、3人目の地上人に期待していた。

ゼットは、2人目の聖戦士に対して、歩み寄る事も、話し掛ける事も、しなかった。トッド・ギネスへの彼の感想は、バーン・バニングスのそれと同じだった。更に、ショットが、トッドを見るや、白人だ、米軍兵だと、我が物顔で説明したのを、

(だからなんだってんだい。ショット、お前なんか、自称カリフォルニア州出身で、アメリカ国籍はいつ取得したのか定かでない。実際にはオーストラリア人じゃないか。それを、殊更、USAを強調したがる奴なんだ、ショットは。どうしてなのかは、俺の関知する処じゃないが…ふう。)

とため息をつき、褐色の頭髪をなで、ゼット・ライトは、前方に立つガラリアの後ろ姿に見とれた。

(トッド・ギネスと言ってたな。あいつのなまりは俺と同じ地方だ。マサチューセッツのどこだろう。あの言葉使いには、懐かしさは、感じるが。でも、俺のガラリアたんにあの態度!バーンの野郎も、流石にムカついてたみたいだ。ブン殴ってやりゃー、よかったのに。)

 バーン・バニングスは、2人目の地上人、トッド・ギネスへの憤りをおさえようと、息を整えていた。次の聖戦士は、まともな人物でありますようにと、心中で祈願し、シルキーの上空を見上げた。

 ガラリアは、また、バーンの隣りに立ち、上を向いた、彼の横顔を見て、トッドの言った事を、反芻してしまっていた。

 私の事を、美人だと、ゆった。…そうかな、ブスではないとは思うが、あんなふうに、男に、面と向かって言われたのは、アトラス以来だ…初対面のあいつ、トッドですらそう言うのに…バーン…お前は、リムルの方が、いいの?私は、見ていないのか?

 そのように、私からそっぽを向いて<上>を見ているのだな?

 ああ、だめ、だめだ。任務中なのだ、次の地上人は、上手くいくだろうか…任務に集中しなければ…

 3人目の落下音は、2つ、あった。どすん、と、どかん、である。バーンとガラリアは、

「なんの音だ?!」

と、2人同時に、口にした。どかんってなんだ、これは変事だ、警戒しなければ、と2人のバイストン・ウェル騎士は、勇ましく構え、白いもやが晴れる所に、駆け寄ると。

ガラリアの後方で、今度は、地上人技術者2人、ショットとゼットが、2人同時に同じ台詞を叫んだのだ。

「ホンダだ!!」

ほんだだ?なんだろう、ホンダダって。すごい大声で、2人とも歓声をあげたぞ。ホンダダとは、地上語の、歓びの表現かな?と思うガラリア。

 褐色の肌のアメリカ人、ゼット・ライトは、褐色の瞳をキラキラさせ、満面の笑みで、どかんと音をたててバイストン・ウェルに落下した、懐かしき地上のマシン、ホンダのバイクに駆け寄った。金髪碧眼の、自称アメリカ人、ショット・ウェポンも、瞬時にバイクに近付きしゃがみこみ、もう機体を撫でまわし、しきりにうなっている。

「ううむ、ホンダ、GL1100、インターステーツではない。新型だな、わたしの知らぬ型式だ。わたしが地上を留守にしておる間に、これを出してきたか!ううむ、いい、いい…おのれ、メイドインジャパン!おのれ、やってくれるわ、本田技研め!」

ゼットも、ホンダダの部位のあちこちを、丹念にチェックし、うなっている。

「いい部品使ってるなあ。本田は、下請け工場を分散させ、中小工場同士を競争させる戦略で、小さい部品の隅々まで、精緻な、最高水準のマシン開発を容易にしたって言うが、なるほどなあ。やるなあ、本田技研。さすがだ。」

ガラリアは、ホンダダとは、ホンダギケンの略らしいな、なんだろう、ホンダギケンって、と思いながら、マシンではない、どすんの方、人間の方を、覗き込んだ。あっちで、ショットはまだ、うなっている。

「ううむ、いい、いい…おのれい、やってくれるわ、本田宗一郎めが!」

「本田宗一郎は、社長は引退しただろ、ショット。」

バーン・バニングスは、ホンダダに夢中な連中は視野外にし、ホンダソウイチロウって誰だ、筆者は慣れない機械描写で無理しすぎだぞと思いつつ、仰向けで倒れている、地上人を、足元に見下ろした。

ヘルメットをかぶっているな。我々のヘルメットと、似た形だ。気絶しているようだ。

その時、バーンたちを遠巻きに囲んでいた、警備陣の中から、下士官の叫ぶ声が。

「チャム・ファウだ!」

中庭を見晴らす、2階の窓辺にいたリムルは、青い瞳孔を輝かせた。友達であり、恋人ニーの使者である妖精の羽、はためく透明な4枚羽から、りんぷんを撒き散らすチャムの姿に、遠いチャムへと届けと、

「チャム!ここよ、地上人が、今、」

と叫ぼうとして、その唇を、音楽教師に塞がれた。うぅっ、と喉をつまらせ、姫君は、無礼なミュージィ・ポウから、逃れようと暴れた。リムルを驚かせたのは、細腕の教師ミュージィの、自分を床に押さえつける腕力の強さと、

「姫様。大声は…はしたのう御座います」

と、目だけでうっすら笑う女の、心根の冷たさである。

この人は、おしとやかな先生などではなかったのだわ。教え子を、いたわる気持ちなんて、ない人。ショットの奥さんになろうとする、自分の欲望しか、眼中にない人なのね!

 バーンの足元、横たわるヘルメットの地上人は、自分の眼前に、猛スピードで向かってくる<光る物体>を、視界に入れ、

「あれは…対向車のライトかな…」

と、つぶやいた。バーンは、こちらに真っ直ぐに飛んで来るチャム・ファウと、地上人の覚醒のつぶやきとを、同時に五感で捉え、抜刀し叫んだ。

「切り捨てい!ギブンの子飼いめ、こざかしい。ガラリア!」

「うむ!チャム・ファウ、地上人に寄るでないわ!」

青い髪の男女は、長年の付き合いで、瞬時の判断が、同時である。ミ・フェラリオ、チャムの目的物は、ただひとつ、ホンダダと一緒に落ちてきた、この地上人。一直線に、バーンとガラリアの間を飛び抜けようとする、チャムに、2本の真剣が振り下ろされた。

「仕損じたッ、バーン!」

ガラリアが叫び、同時にバーンは後方の警備隊へ、

「矢を放て!逃がすな、虫を殺せ!」




その時、座間祥は、眼前に迫り来る対向車のヘッドライトが、少女の声で、自分に、確かに自分に向けて叫んだのを聞いた。

「あんたなんか、バカぁっ!」

俺にバカって言った。なんだってんだ。確かに、俺は高校中退だ。世間から、おふくろから、バカ、バカ言われてる。おふくろは、俺に、ヒステリックに言うんだ。

「せっかく私立高校に入ったと思ったら、バイクに乗りたいから中退するですって、祥!母さん、そんなの許しませんよ。暴走族にさせるために、塾に行かせたわけじゃありません!高校の入学金だって、いくらかかったと思ってるの!」

おふくろをなだめたのは、親父だ。

「お前、暴走族ではないよ。祥は、モトクロスの選手になりたいと言っているんだ。プロのライダーを目指すなら、いいんじゃないかね。」

そう言って親父は、アスペンケードを買ってくれた。ところが、チーム仲間の沓田たちは、アスペンケードなんて、モトクロッサーの乗るもんじゃない、金持ち風ふかせたいだけの、おぼっちゃんだと、俺をバカにする。

 みんなが俺を、バカだ、バカだって言うんだ。それで?今、俺にバカって言った、光る、飛ぶものは、なんだろう?

 俺は、アスペンケードで、首都高を走ってた。運悪く、沓田たちの車に出会って、煽られた。吹っ切ろうとして、急に…目の前が真っ暗になった。事故った、まずいと思った。

 そうしたら、ライトが…光るものが…目の前に向かって来たから、俺はてっきり、それは対向車、ライトは一個だったから、バイクだとばかり。いいや、高速道路で対抗車線は見えないはずだ…じゃあ、なんだ?さっきの声は、女の子の…声だった。おや?周りが、騒がしいな。あれっ!おおぜい、人がいる。

 バーン・バニングスは、肩で息をしながら、まだ寝転んでいる地上人のわきへと、歩んできた。

「逃がしたか、くそう、チャムめ、すばしっこい奴だ。ガラリア、どうしたか。」

「バーン!シルキーが、だめみたいだ。使えないらしい。」

 ユリア・オストークは、華奢なシルキーの肩を抱き、割りと優しげに、声をかけている。

「疲れたの?呼吸が苦しいの?」

シルキーは、ぜいぜいと喘ぎ、蛍光グリーンの口紅を、パクパクさせている。

「ガラリア様、息が、限界みたいですわ。くちびるが、ひからびてますもの」

ユリアの報告を、ガラリアは、階上のドレイクを見上げ、伝えた。

「お館様、シルキーの息があがりました。どういたしますか」

するとドレイクは、傍らのルーザの顔色を伺い、

「どうだ、ルーザ。最低人数の3名は、来させた。切り上げるか」

ルーザは、仕方が無いでしょう、とため息をついた後、

「お前様、あのミ・フェラリオ、ギブンの伝令が、今日のような日に狙って来ますのよ。リムルと、ニー・ギブンとのこと、もはや戯言で済まされない事態ではありませぬか。もっと警戒しなくてはなりません。それに、ギブンだけではない、他国も、オーラ・バトラーをどんどんと自力で作っておりますでしょう。今後の事、大丈夫なのですか」

「だから、こうして、聖戦士を呼び込んだのだ。ダンバインを使わせるためだ。」

「あのような者たち、使えますの?ただ地上人だと言うだけで。」

「やってみなければ、わからんよ。のう、ルーザ、そう急くな。物の順序はのう、当たってその手応えから、次の手を勘考するものよ。いずれ全て、わしの思い通りに運ばせて見せる。ギブン家も、リムルの事もな。」

ドレイクは、ガラリアに、シルキーの格納を命じ、

「後は任せたぞ、バーン。」

と言い、領主夫妻は、窓の中へと消えていった。




 3人目、今夜最後の地上人を、足元に見下ろし、バーンとガラリアは、もう既にかなり、疲弊していた。足元に転がる地上人、見れば、背は低いし、やせっぽちだし、ヘルメットから覗く大きめの瞳は、ぱちくりと瞬き、ほんの子供ではないかという印象である。

バーンは、

(まだ少年ではないか。使えるのか、こんな子供。ショット様が提示された、募集年齢、満16歳以上というのが、若すぎたのだ。)

と思っていた。ガラリアは、

(なんだ、ガキか。私は、年下には、興味ゼロパーセントなのだ。)

と、業務上で疲れてしまったので、個人的感想へ、思考が向いていた。

 バーン・バニングスは、イライラしていた。

原因1、さっきの地上人、トッド・ギネスの態度。いきなりガラリアに色目を使い、わたしを無視した。

原因2、チャム・ファウが警備網を破った。我が警備隊の部下どもの不手際。

原因3、そのチャムを取り逃がした。この地上人を気にして、足手まといになったからだ。とにかくわたしのせいではない。

 ええい、もう面倒くさい。早く、今夜の仕事は終わらせよう。

「地上人。君、君のことだ。目は覚めているな?ええとだな。君は3人目で、わたしは同じ説明を、言い飽きたので、とにかく、おとなしくしたまえ。詳しい説明は、明朝9時から、新入ガイダンスを行うから、今夜は、早めに休みたまえ。以上。」

 ガラリア・ニャムヒーは、本日の学習成果を、復唱していた。

学習1、神聖視していた、聖戦士なる者は、どいつもこいつも、ただの<男>だった。

学習2、初対面の男が、私の事を、パッと見で美人とゆった。私は、バーンにふられたと悲嘆に暮れていたが、見栄えは、悲嘆するほど、衰えていないらしい。

学習3、その、私を美人だとゆった男は、本日の釣果3魚中では、ルックスは割りと良い方と思われ。ユリアとお喋りしたいな、このテーマで。

 あーあ、気がつけば深夜だ。疲れた。あくびが出そうだ。

「地上人。あんた、あんたのことだよ。シルキー・マウはもう水牢に戻してしまったし、後はあんたが、寝室に行けば、我々は終業できるのだ。みんな疲れているのだ。残業手当が出ないのだ、我が軍は。固定給なのだ。とにかくおとなしくしろ。以上。」

 すると、うずくまり、問い掛けるバーンと、次いでガラリアをしげしげ見つめていた、地上の少年は、突然立ち上がり、

「それは聞けないッ!」

と、本編初の、原作『聖戦士ダンバイン』と同じ台詞を口にし、アニメ通りに、バーンにカラーテの技で飛びかかろうとしたが、アニメと違い、バーンは、全然ひるまず、極めて面倒くさそうにテキトーに足払いし、転ばせ、そこへガラリアが、

「手間をかけさせるな、寝ろッ!」

と言いながら、極めて面倒くさそうにテキトーに、腹に蹴りを入れ、3人目の地上人は、あっさり気絶した。

 救護班が呼ばれ、3人目はトカマクと同様に、担架で運ばれて行った。

 ガラリアは、両手を天空に伸ばし、背中を反らせて、あ〜あ、と大あくびした。ふと思いつき、後片付けの号令を出しているバーンに、

「そう言えば、バーン。3人目の名前を、書記に書かせるのを、忘れたな」

「ああ、そうだったな。よい、もう、明日で。今日は終わろう…ガラリア、お前も、もう休め。」

 ガラリアは、少し、頬を赤らめた。今の、バーンの言い方、私の名の呼び方が、ほんの少し、優しかったから。

<次回予告>

BGM ♪ちゃらららっ ちゃららららっ♪

とうとう始まっちゃったよ、原作の第1話って感じさ!
次回は、アニメだったら、ダンバイン起動のはずだけどさ、
なにしろ、月下の花はさ、メカとか戦闘シーンには、
興味0%だからさ、そっち方面は書く気ないんだけどさ、
でもメカ戦が、全然ナシじゃー、話し始まんないしさ、筆者、悩み中さ!
ま、たぶん、戦雲がショウを呼ばないさ。
じゃっ、またねぃ。

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