月下の花

第51章 ダーナ・オシー1号機と2号機


深夜のドレイク軍基地。かがり火に照らされる、青や赤のオーラ・バトラーを見上げて、ガラリアとゼット・ライトは、早く2人きりになりたいと、そればかり考えていた。

この男女は、既に、キスの仲になっている。ガラリアは、親友のユリアにも、隠さなくてはならない、秘密を持った。いまここが、警戒を要する前線であることだけが、この男と、この女の、情事を、禁じていた。

ゼット・ライトは、昼間、かわいい年下の彼女に、熱いくちづけをあたえた瞬間から、彼女からおねがいされたこと、「私を、一夜妻にして。」 この懇願に、こたえる気持ちは、毛頭なくしていた。

一夜で手放す気など、さらさら、ない。ガラリアは、おれの女だ。一夜妻?とんでもないよ。

ガラリアを、抱きたくて、抱きたくて、何百夜、せんずりこいてきたと思う?そうだあれは、たった6日前の真昼だった。ガラリア本人から、告白され、天にものぼる心地だったのに、ワイフの顔がちらついて、混乱して、ガラリアをつっぱねてしまったおれは、大馬鹿ものさ。

2度と迷うものか。ガラリアは、もうおれの女になった。ガラリアの白い素肌は、全身あますところなく、なめまわしてやる。昼間、台所で抱きしめたときには、甲冑がじゃまだった。次こそ、一枚ずつ衣服をむいて、そしてガラリア、おまえのひだを、クリトリスもアヌスも、おれがこの手で、むいてあげるから、待っていなさい。

これから先、何百という夜、ガラリアの肉体を、支配し続けるのは、このおれだよ!

ゼット・ライトは昼間、キスをしたあと、ガラリアに、今夜、何時になったら、ここへ来なさいと、密通の場所を指定していた。キスの魔法でとろけていたガラリアは、忠犬のように、ハイです、ハイです、と、うなずいた。

いま、おおぜいの兵士といっしょに、野営をしているガラリアは、早く交代の時刻になれと、夜空を見上げて、お祈りをした。夜襲なんか、ありませんように。ゼットが用意してくれた、いいことをする場所に行きたくて、軍服のなかのおまたを、愛液でぬらしていた。

トッド・ギネスはさっき、杉林のほうへ歩いて行ったし、ユリアも、自分の持ち場にもどるため、離れて行った。私のいいひとも、仕事場のある建物に、入って行った。あとは、時間さえ、過ぎれば…

ガラリアの耳に、トッド・ギネスの叫ぶ声が、聞こえた。

「おいッ!待てよ、どうしたんだい、それは!」

彼女は、林間にいるらしいトッド・ギネスに、呼びかけた。

「なにごとかっ?」

杉林の、深い闇の彼方から、地面をはう轟音が聞こえてくる。内燃機関を持った機械が、大地に車輪をころがし、疾走してくるではないか。ブーンブーン、まったく聞き慣れない音だ。あんな機械、我が軍には、ないはずだ。

「敵か!」

ガラリアが身がまえた瞬間、こんどは聞き慣れたテノールの声が、その機械のはしる音にまたがって、大声で告げた。

「空襲さ!ダーナ・オシーが2機、上空に帰来してるさ!ガラリアさま、大至急、応戦を!」

斥候に出ていたセザル・ズロムは、ホンダ製バイク、アスペンケードを器用に操縦し、悪路を、全速力で帰還したのだった。

ショウ・ザマが地上から持ち込んだ機械に、なぜセザルが乗っているのか。そんな部下の様子に、おどろいている暇など、まったくない。ガラリアは即座に、いちばんちかくにあったオーラ・バトラー、赤いドラムロに乗り込み、もう飛び立っていた。セザルはバイクに乗ったまま、基地のあちこちを走り回り、空襲、空襲と報告した。バーン・バニングスは、青いビランビーで、トッド・ギネスは、青いドラムロで、上空へと発進した。

基地広場に、着弾した。ダーナ・オシーの砲撃だ。真夜中の戦争がはじまった。

艦長ミズル・ズロムは、ブル・ベガーを着地のまま、主砲を湖の対岸に向けて、艦砲射撃の態勢にした。サーチライトが、夜空に乱舞する。ダーナ・オシーが2機、出てきたなら、ゼラーナとダンバインも、姿をあらわすかもしれない。

赤いドラムロで出たガラリアは、後から思い出したが、オーラ・バトラーで実戦に出たのは、このときが初めてだったが、訓練では、もう何度も操縦している。おそれていた夜襲をかけられ、

「おのれ、こしゃくな!」

夜陰に飛来する、2機のダーナ・オシーを、目利きのまなこで追った。1機を先頭に、距離を保って後方から、2機めが、やって来る。先頭のダーナ・オシーが、ひじょうに動きが俊敏で、あれが、バーンが言っていた、ミの国の軍人が乗っているほうだなと、ガラリアは、ねらいをつけた。そして、古式ゆかしい騎士らしく、名のりをあげた。

「ドレイク軍副団長、ガラリア・ニャムヒー見参!御首(おんくび)、ちょうだいする!」

すると、無線が通じて、ダーナ・オシー1号機から、男の声が、ガラリアに届いた。

「お手前が、ガラリアどのか!お噂はかねがね、うかがっておりまするぞ!」

彼女はひるんだ。堂々とした声で、敵の男が、自分の名を呼んだからだ。私の名前を、知っている?なにものだ、この男?その刹那、ダーナ・オシー1号機の右手にかかげたオーラ・ソードが、ドラムロの足もとを斬りつけた。かろうじて、あたらなかった。

トッド・ギネスの青いドラムロが、攻撃された赤いドラムロを援護し、ダーナ・オシー1号機に斬りつけたが、こんどはダーナ・オシー2号機が、1号機をかばうように、わって入り、女の声が、両陣営の無線機にひびいた。

「下がってください。ここは、あたしが、おひきうけします。」

すると、1号機の男が、

「マーベルどの、いかん、散開せよ!かたまってはならぬ!赤いドラムロは、わたしの獲物だ。」

真っ黒な夜空に、ダーナ・オシーの黒い塗装は、夜陰に沈んで見えなくなる。マーベル・フローズンがあやつる2号機は、ひゅうっと、ひとっ飛び、ドレイク軍の基地を、空爆する役割にうつった。ガラリア・ニャムヒーは、マーベル・フローズンと対面した経験から、

(あの高慢な女が、1号機の命令に、素直にしたがった。すると、この男は、ミの国でも、高位の軍人にちがいない。)

こう考え、操縦桿上部にある集音マイクにむかい、大声で指示した。

「全機、ダーナ・オシー1号機に、集中砲火!この戦士を、のがすでないぞ、落とせ!」

トッド・ギネスは、即座に命令にしたがい、青いドラムロと、赤いドラムロは、ダーナ・オシー1号機をはさみ、攻撃し続けた。基地からは、ドロもたくさん飛び立ち、甲板に立つユリア・オストーク下士官が、ハンドマイクで命令を発した。

「ドロ隊第1班、ガラリアさまの援護にとべ!第2班、マーベル・フローズンのダーナ・オシーを攻撃せよ!」

ユリア自身は、第1班の先頭に立ち、副団長の命令どおり、ダーナ・オシー1号機に、ドロで攻撃をしかけた。

セザル・ズロムは、ドロ隊第2班のひとつを、1人で操縦して、戦闘にくわわっており、けんめいにマーベル・フローズンと戦っていた。軍才ある彼だったが、ドロの弾頭は、蠅のようにとびまわるダーナ・オシーの速度に、追いつかないのだ。この戦闘力の差は、初戦の時点で、あきらかになっていた事実だ。セザルは、舌打ちした。

(ちっ、ちっ!しょせんドロじゃあ、だめなのさ。ビランビーで出た、バーン・バニングスは、なにをしてるのさ。このままでは基地が…。)

するとセザル・ズロムの切望に、うまくこたえるタイミングで、マーベルのダーナ・オシーの真後ろから、青いビランビーが急襲した。死角となる下方から急上昇し、いきなり至近距離にあらわれ、ダーナ・オシー2号機を、背後から、がっしり抱きかかえてしまったのだ。ダーナ・オシーは、右手に持っていた剣をふり落とされ、身動きがとれなくなってしまった。これには、セザルも、喜んだ。

(バーン・バニングスは、あの戦法を、ねらってたのか。やるじゃんさ。これで、ダーナ・オシー2号機は、やっつけたさ。)

セザル・ズロムが珍しく、バーンをほめたのも、つかの間だった。ダーナ・オシー2号機の動きを封じ、気をよくしたバーン・バニングスが…、でかい声で…、こんなことを…、言ったのだ…。

「ふっふっふ。こんどは、うしろから、ぶちこんでやろうか?マーベル・フローズン。」

かあっとなったマーベルは、心中で叫んだ。

(なんて、いやらしい男なの!)

バーン・バニングスは、ニヤニヤして、さらに、言葉責めをした。

「わたしに、かわいがってほしいのだろう、マーベル・フローズン。ふっふっふ。捕虜になり、懇願するなら、犯してやらんでもないぞ。」

我慢ならず、マーベルは、背中から羽交い締めにされている、ビランビーむけて叫んだ。

「おだまり、恥知らず!」

バーン・バニングスを、一瞬でも、ほめてしまったセザル・ズロムは、ショックのあまり、心が折れてしまい、ドロの操縦桿をにぎったまま、ヘルメットの頭を、ガックリうなだれてしまった。

(…あの、バカ…。)

愛すべき、読者諸兄よ。さきほどから筆者は、「かぎかっこ」のセリフと、(まるかっこ)のセリフを、厳密に区別し、記述していることに、お気づきになったであろうか。第37章「ダンバインをおとせ」 において、この小説では、オーラ・マシンの乗組員同士が、言葉を交わすにあたって、どのような方法をとるのかを、定義した。原作アニメでは、なんとな〜く、通じてしまっている、マシン・パイロット同士の会話だが、本編においては、そうではない。技術的に確立された、通信システムを介してのみ、パイロット同士の会話が可能になるのである。

「かぎかっこのセリフは、無線機のスピーカーを通して、敵味方の全機、無線をオンにしてる機体の、全員に、聞こえているのである。」

(いっぽう、まるかっこのセリフは、各パイロットが、心の中で思っただけか、くちに出して言ったとしても、無線をオフにしていたり、声が小さすぎたりして、他の者には、聞こえていないのである。)

したがって、バーン・バニングスの、わかりやすいセクハラ発言は、敵機のマーベルによく聞こえるように、無線機用集音マイクを使用して、なされた。だから、ドロ隊第1班の、セザルにも、聞こえた。そして、セザルだけではなく、ドロ隊第2班の、ユリアも聞いたし、ブル・ベガー艦長のミズル・ズロムも聞いたし、青いドラムロのトッド・ギネスも聞いたし、

(おい、おいっ。バーンの野郎、この非常時に、なにを、口説き文句なんか、たれてやがるんだいっ?!)

赤いドラムロで、ダーナ・オシー1号機と奮闘中の、ガラリア・ニャムヒーにも、もちりん、もちのろん、まるっとそのまま、聞こえていたんである!!

ガラリアが、スピーカーから流れてきた、バーン・バニングスの鬼畜発言を、耳にした瞬間、同じく、その発言を聞いていた、ダーナ・オシー1号機のパイロット男性が、侮辱を受けている味方機に呼びかけた。

「お逃げなさい、マーベルどの!ドレイク軍の、悪辣非道な手の内、見えたり!わたしも帰還する!」

いま戦場で、どんな大事件が起きているのか、1人だけわかっていない、ビランビーのパイロットに、怒鳴りつけたのが、はらはら泣いているセザルだった。

「騎士団長どのーッ!無線でみんなが、聞いてるのさ!うわーん、恥ずかしいから、やめてさ!」

冷静沈着だったセザルが、情けなさで、泣いていた。ユリア・オストークは、ドロの甲板で固まり、手にしていたハンドマイクを、ぼとっと落とした。バーン・バニングスは、

「えっ?えっ?」

まだ事態が、のみこめていない。そのすきに、マーベル・フローズンのダーナ・オシーは、ビランビーの腕をすり抜け、脱兎のごとく、逃げ去った。ダーナ・オシー1号機も飛び去ろうとしたが、赤いドラムロのガラリアは、果敢に立ち向かい、

「逃がすか!そのほう、私の名前を、知っていたな。ミの国の戦士よ、名を、名乗れ!」

すると、ダーナ・オシー1号機は、こう言い残し、レッド・バーの砦へと、飛んで行った。



「わたしは、ミの国王、ピネガン・ハンムである!また会おう、ガラリア・ニャムヒーどの!」

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