月下の花

第42章 ガラリア、エルフ城へ行く


ドレイク・ルフトは、いつもなら、部下への重要な命令は、ラース・ワウ本館内の執務室か、会議室で下していたが、今朝はあえて、中庭に、バーン・バニングスと、ガラリア・ニャムヒーを、呼び出した。

騎士団長と、副団長をともなって、お館様がやってきたので、中庭にいた兵士や下男たちは、一礼したが、すぐに、庭仕事や門番や、自分たちの業務にもどった。

ドレイクは、白い敷石をしきつめたテラスの、三段だけある階段の、上に立ち、ふたりの部下を、三段下に、立たせた。そして、世間話をするように、指示を出した。

「バーン、ガラリア。先日、伝えておいたとおり、フラオン・エルフ王への書状を作成した。アの王室にたいして、謀反をたくらむギブン家の残党が、ミの国の傘下に入ったこと、これを討伐せんがため、我が軍に出兵を命じてほしいむね、したためてある。そこで、ガラリア、そのほうに、エルフ城への使者の任を命ずる。」

ガラリアは、自分では、即答したつもりだった。

「ぶぁい。きゃしこまりました。」

ベロが、回っていない。声も、じゅうぶんに出ていない。カッスカスの声だ。なにより顔が、ひどかった。昨日から今朝まで、泣きはらしたせいで、目のまわりが、ブックブクに腫れ上がり、眼窩(がんか)が陥没してしまって、どこに目があるのか、わからなくなっている。ガラリアの原型を、とどめていない。美人の面影は、ひとつもない。ガラリアというより、パタリロみたいな顔になっている。そして、覇気というものが、ひとつもない。今朝のガラリアは、生ける屍(しかばね)に等しかった。

そんなガラリアの顔を、横目で見ているバーン・バニングスは、意地悪く、ニヤついていた。それみたことか。わたし以外の男に、花なんか贈るからだ。ふられて、泣いておればよいのだ。

ドレイクは、おもむろに杖をとり、利き腕に持ちかえた。

「ガラリア・ニャムヒー、そこになおれ。ひざまずくがよい。」

「ぶぁい。」 ←なにも考えてない返事

杖の先で、ガラリアのあごを持ち上げ、その醜く腫れ上がった顔を、上向かせた。ドレイクは、最初、静かに言ってきかせた。

「ガラリア、多くは言うまい。そのほうは、我が軍の、副団長にして、守備隊長ぞ。こたび、我が軍の顔として、王城に使わす者ぞ。…なんじゃ、その、ふぬけた顔は。大事な任務を言いつけておるのに、なんじゃ、その、やる気のかけらも感じられない返答は。」

と、言うなり、ドレイクは、杖をふりあげ、ガラリアの左肩めがけて、相当な強さで、ふりおろした。

「ばかもの!」

バシン!激痛で、ガラリアは、キャイーンと、子犬のような悲鳴をあげたが、ドレイクは容赦なく、2発め、3発めをふり下ろし、杖は彼女の背中へ、首の付け根へ、打撃を与えた。

「なんのための守備隊か!」 バシッ バシッ

「ハウッ!ギャウンッ!」

ガラリアは、ぶたれて地面にころがり、バーンはなすすべもなく立ちつくし、中庭にいたみんなは、さわぎに注目した。お館様は、バシバシうちすえながら、

「失恋ぐらいで、いちいち死んでおって、守備隊長がつとまるか!ばかもの!しっかりせい、ガラリア・ニャムヒー!」

ドレイクが、彼女を中庭に連れてきたのは、このためだった。昨日、機械の館のあるじが、ガラリアを袖にしたニュースは、とうぜんドレイクも知っていた。そこで、精神注入のため、人前で体罰をあたえ、説教をくだすことにした、お館様であった。

ただでさえ、顔が原型をとどめていなかったガラリアは、ボコボコにされ、ノシイカのようになって地面に倒れた。何発目かで、なぐる手を休めたドレイクは、命令のつづきを言い渡した。

「よいか、ガラリア!本日中にエルフ城におもむき、この書状をとどけて、本日中に帰還し、報告せい。フラオンは文盲ゆえ、手紙を渡すだけで、済む任務だ。じゃが、ミズルやバーンではなく、特におまえを使わすには、わけがある。アの国の宗主国王、エルフ家の近衛兵団には、代々、女戦士は入れないという軍律がある。」

敷石の上で、くの字になって、へたばっているガラリアを、呆然と見ていたバーン・バニングスは、ようやくハッとした。ドレイク・ルフトは続けた。

「伝統と呼ぶしがらみに、ただ盲目的にしたがっているだけの、ふぬけた近衛兵どもに、りりしく美しい、ドレイク軍の女戦士の姿を、見せつけてやれい!こののち我が軍は、王室近衛兵団と合流し、アの国統一軍を編成する計画であるからな。そのための先鞭よ。わかりやすく申そう。愚かな近衛兵どもを、そのほう、誘惑してこい。こっちの軍についたほうが、よい思いができるとな。」

そこまで計算しての、人選だったのか。バーンは改めて、お館様の先見の明に感嘆した。…ただ、ガラリアに、誘惑してこい、というのは、個人的には、激しくやめさせたいが…

「よいか、ガラリア・ニャムヒー、顔を洗って、金色(こんじき)の軍装を整え、すぐに出かけよ!ユリア・オストーク下士官を、ともに連れて行け。よいな!」

ガラリアにとっては、失恋の傷をいやすため。また、ドレイクにとっては、王室近衛兵団を味方につけるため。一挙両得の作戦が、開始された。

ユリア・オストーク下士官にとっても、これは適任であった。守備隊兵舎で、ガラリアから命令をうけたユリアは、はりきった。フラフラになっている、上官ガラリアをふんづかまえ、女子寮の風呂場にひきずってゆき、湯につけ、冷水につけ、クリームをすりこんで、ふやけた顔を修正した。

ユリアは、親友を勇気づけることに注力した。また、「王室近衛兵の男どもを、誘惑してこい」という、お館様の命令は、乙女心をくすぐるものがあった。正午には、軍装に香をたきしめた、女戦士2人が、バラウに乗って、ラース・ワウを飛び立ち、一路、エルフ城へと向かった。




午後一(ごごいち)で、王城に到着したガラリアとユリアは、フラオン王の謁見の間に、招き入れられ、書状を手渡して、帰った…というわけには、いかなかった。エルフ城上空にやって来た2人が、まず驚いたのは、飛行艇バラウが着陸するために、適当な滑走路が見当たらないことだった。

オーラ・マシンはどれも、地上の飛行機のような、長い滑走路は必要としないが、せめてヘリポート大の地面は必要だ。だが、アの国の王城、エルフ城は、城塞が大規模なわりには、近代兵器の備えが、著しく欠落していた。高い石垣が、幾重にも重なり、細かく石塀で区画されている。石塀と石塀の狭間は、数メートルしかないのだ。あちこちには大砲のそなえがあるが、このような城壁など、空飛ぶ兵器で、上空から見下ろせば、恰好の空爆目標にしかならない。旧式の大砲の玉は、オーラ・マシンの空域には、とどかない。

バラウの後部座席から、エルフ城を見下ろし、ユリアは、あきれて、

「まあ、どういたしましょう、ガラリア様。このお城には、降りる場所がありませんわ。そうかと言って、適当な場所は、あそこ…外堀から遠く離れた、あれは、畑でしょうかしら?」

今朝は、泣きすぎで陥没していた目を、今は、はっきり見開いて、ガラリアは、王城の中央に、あるものを見つけた。

「あれを見よ、ユリア。王の居室があるらしい、広いバルコニーに、へんなものが2つ、置いてあるぞ。あれは、旧式のオーラ・バトラー、ゲドではないか。」

ダンバインやドラムロと同じくらいの大きさの、黄色いオーラ・バトラー、ゲドは、全長6〜7メートル。そんな中途半端な大きさの、しかし、じゅうぶん実用に耐える兵器を、フラオン王はドレイクにもらったが、おもちゃかなにかだと思っているらしく、自分の居室から見えるところ、広い窓の両端に、狛犬のように立たせていた。塗装はさびて、パイロットは、どこにもいない。

このような、エルフ城のありさまを、観察しただけで、もはやこの王室には、一国をまとめる統治能力は、ないことが、歴然としていた。

ドレイク様の愛のムチを全身にあび、軍務に燃えるガラリアは、一気呵成に、ゲドの置いてある場所に、降下した。さっきから、バラウを見上げて、ほうけていた近衛兵たちが、わめきながら、駆けよってきた。ハッチをひらき、堂々と出てきた、きらびやかな女戦士、2人を見て、男たちは、息をのんだ。

「降下したのは、ドレイク軍の新しい機械だ。出てきたのは…おい、お、女戦士だ…!」

ガラリア・ニャムヒーは、オレンジ色の軍服に、茶系統の甲冑をかさねて着ており、胸あてにある、ルフト家の紋章は、黄金でふちどられている。豊かな胸の隆起が、硬いはずの胸あてを、内側から、こんもりと持ち上げている。ウエストはひきしまり、臀部は丸く、おしりの割れ目が、オレンジ色のおズボンにぴっちり、よく見える。ヘルメットをぬいだその耳には、きらきらピアスがゆれており、唇には、真紅のルージュがぬれて光っている。青いショートヘアの下には、白いうなじが見え隠れしている。

「すごいな、はじめて見たぞ。女が、軍服を着ている!」

ユリア・オストークは、薄茶色の軍服に、黄緑色のセミロングヘアをふんわりのせ、漆黒の瞳は、黒目がちで、ガラリアとならぶと、まだ少女である印象が強い。実際には、精神年齢では、ユリアのほうが、ガラリアよりはるかに上であるのだが。そんな賢い彼女が、計算しつくされたビジネススマイルを、うふっとたたえると、純朴なえくぼが、ノーメイクのくちもとを飾り、あどけないかわいらしさで、満ち満ちるのだ。

「女戦士だ、女戦士だ!見ろ、いい女が、2人もいる。」

女戦士を見たことのなかった、世間知らずの近衛兵たちは、性愛の対象物が、自分たちと同じ、軍装をしている様子に、激しく欲情した。柔肌と鋼鉄のアンバランスさや、ふくらむ乳房をつつむ軍服という物珍しさや、皮革製品に締め上げられた女体の起伏や、さまざまなフェティシズムが、彼らの精嚢を刺激した。

「2人とも、若くてかわいいな。おい!こっち見て、笑ってるぞ。」

ある男は、軍服の乙女ユリアを見て、こう想像した。彼女に剣をつきつけ勝負をいどみ、打ち負かして、命ごいをする彼女の軍服を、ゆっくり切りきざむのだ。乙女の素肌をあらわにしてやり、うっすらと生えた陰毛に息をふきかけて、男の味を、教えてやる。まだ男を知らなかった女戦士ユリアにむかって、そのほうには、もっとよい剣をさずけてやろうと、自分の一物をとりだし、ゆっくりと処女を味わってやるのだと。

別の男は、鎧武者(よろいむしゃ)ガラリアの、尻の下に顔を敷かれて、窒息したいと願った。ガラリアに馬乗りにされ、おまえの貧相な武具を見せてみよと命令され、屹立した肉棒を、睾丸を、むきだしにさせられ、ガラリアの白魚のような手指で、さんざんにもてあそばれ、こんなにいきりたっていたのか!赤らんでふくらんで、捕虜の分際でなまいきな!この、けしからぬ性器を、私のなめらかな性器にはさんで、しめあげる刑に処してやる!きさまの精液は、一滴のこらず私がしぼりとってやるからなと、ののしられることを夢見た。

そこに、とどめをさすように、声に張りを取りもどした、ガラリアのソプラノが響きわたった。

「いきなり着陸いたした非礼、なにとぞお許しいただきたい。私は、ドレイク軍副団長、ガラリア・ニャムヒー!ドレイク・ルフトよりの親書を献上いたしたく、どうか、フラオン・エルフ陛下に、お目通りを願いたい。」

近衛兵の中には、声フェチのものもいたので、ガラリアのセクシーダイナマイトな見た目からは想像がつかなかった、4歳児童なみに幼い、チャクチャクした声を聞くやいなや、勃起したものもあった。そんなにも幼い声で、そんなにもかたっくるしい言い回しをするなんて!声質と言葉遣いに、ギャップがありすぎるのが、ガラリアの、きわだった性的魅力なのだ。ガラリアに続けて、ユリアが、計算ずくの挨拶を述べた。

「失礼いたします。わたくしは、下士官のユリア・オストークであります。ほまれ高き、近衛兵団のみなさま?うふっ、お部屋に入らさせていただいて、よろしゅうございます?」

女らしい澄んだ声に、おとなしやかな、完璧な敬語だ。ああ、なんて、かわいらしいんだろう!いいなあ、ドレイク軍は。同じ仕事場に、あんないい女たちが、むちむちとひしめき合ってるのか。2人の女戦士は、ドレイク・ルフトの見込みどおり、王室近衛兵団を、魅了する作戦を、みごと成功させた。

いっぽう、国王フラオン・エルフに、はじめて謁見したガラリアは、あきれかえった。ドレイクがしたためた手紙を、読むフリすらしようとせず、そうか、そうかと言って、腰の曲がった家老めがけて、投げ出してしまったではないか。ご苦労、ご苦労と言って、ガラリアに背を向け、軍艦将棋に熱中する国王を見て、ガラリアは、痛感した。

こんな愚王の贅沢のために、租税を課されている天領など、なくしたほうがよい。私のご領主様、ドレイク・ルフト閣下のほうが、くらぶべくもなく、国王の器だ。


ガラリアとユリアは、家老が代筆した、国王からの返書を預かり、夕刻までには、ラース・ワウに帰城した。

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