「月下の花」

第5章 国境にて


 夜、アトラスの別荘、食卓の上を見ると、どの皿にも食べ残しばかり、2つのワイングラスには、赤い果実酒が飲み残してあって、食卓をはさんで向かい合った、2つの椅子には、誰も座っていない。豪奢な椅子の、赤いビロードには、まだぬくもりが残っていた。

 そのぬくもりの持ち主たちは、窓際にある、緑色のソファーで、服を着たまま、激しく求め合っていた。マントの付いた軍服を着た、黒髪の騎士は、窓の外まで聞こえるような大声で、

「ああっ!ガラリア!わたしのガラリア!」

と、叫んで、17歳の体を、抱きしめ、撫で回し、赤い唇を、むさぼるように吸った。ガラリアは、黒髪のかかる彼の首筋に、両腕でしがみつき、胸元にすがりついて、歓声をあげていた。ガラリアの、彼へ抱きつく力は、1ヶ月半前よりも、正直であり、顔が全身が、歓喜に満ちていた、が、男の方は、彼女よりもっと凄まじい求め方であった。

 ケミ城でのアトラスは、日々激務であった。国王は、王弟殿下を警戒せよ、という親衛隊長の進言に、真剣に耳を貸そうとしない。ビショット・ハッタの兄王は、アの国王のような愚鈍ではなかったが、親衛隊長ほどの機略はなかった。

「のう、アトラス!ビショットには、あれが欲しいままの領地も、権限も与えておる。その上、あれが王位を望むと言うならば、世は、王位にはこだわらぬ。昨今の戦乱続き、この情勢。戦闘指揮には、元々、世は向いておらぬのだ。亡き父の遺言で王位を継いだが、軍略に長けた弟に譲位してもよいとは思わぬか」

「畏れながら、陛下!先王が、陛下に、王位をと望まれたのは、無駄に国力を疲弊し、民の命を粗末にする、領土拡大抗争を、憂えてのこと!我がクの軍勢は、それがしが取り仕切っておりますれば、隣国に領土侵犯などさせませぬ。然り、ビショット殿下には、領地内での、民百姓への傍若無人な御振る舞い、お聞き及びになりますれば!」

クの国内は、国王の直轄領と、王弟ビショットの領地、アトラスら高位の騎士の領地が3分割されていた。北方に王の領地、ギブン領と隣接した東方に王弟の領地、南の、アの国・ルフト領との国境に、アトラスの領地と、別荘もある。ビショットにして見れば、仮に譲位されても、手に入るのは兄王の領地だけである。邪魔者は、兄王の譲位の意志を阻み、且つ自身も広大な領地を持つ、アトラスであることは、火を見るより明らかであった。兄の頼りである親衛隊長さえ消せば、国内全土がビショットのものになるのだから。

 祖父の代から、クの王室に仕えてきた家のアトラスが持っていたものは、高位と領地だけではなかった。気鋭な親衛隊、兵たちの、隊長に寄せる絶大な信頼、民からの畏敬。

一方、王弟の領地内では、平民に重税が課され、末端の兵士は、平民の子女を陵辱する有り様。そして、ビショットは、隣国ルフト家の内室と通じ、いずれ他国をも手中に、と策略する男である。

「かような御仁であるから、先王は、陛下を後継にと望まれたのだ。わたしのまいた餌に、食いついてくれるかな、王弟殿下は…」

アトラスは、ガラリアへの手紙で、国境の別荘を整えるために一昨日から来ている、と書いていたが、恋人を迎える掃除ぐらいで、わざわざ主(あるじ)が出向く必要はない。アトラスは、恋人におぼれ、浮かれて逢瀬に出かけたように見せ、王弟を失脚させる方策を講じていた。

 そして、別荘の周囲を、部下たちに見張らせて、男は、いとおしい彼女を抱いて、激情に身悶えした。

「あぁ…ガラリア、よく顔を見せてくれ。1ヶ月半、会わない内に、また君は、臭うように美しくなったね」

「ほんとう…?」

激務に疲れた男は、それほど激しく彼女を欲したが、眼前のガラリアは、少し浮かぬ顔に見えた。

「どうしたの、また、そんな悲しそうな顔をして。なにか、心配事でも?」

「ううん、ただ…」

「ただ、なんだい?」

「別荘と聞いたから、もっとこう…2階建てくらいの、こじんまりした家かと思ったら、お城みたいに広いし、城壁も要塞みたいに造ってあるから、びっくりしたのだ」

「ここは、アの国との国境警護の砦も兼ねているからね。もっとも、昨今は隣接の領主、ドレイク閣下との同盟が締結されたから、警備は緩和されている。こうして、安心して君と過ごせるのだから、君のお館様にも感謝しなくては」

「…それもそうだが…」

「どうしたのだい?」

ガラリアは、今日も、ピンク色の制服を着ていた。今日の夕方、クの騎兵数名に付き従われ、この大きなお屋敷に着き、大勢の召使いたちに、うやうやしくかしずかれ、紅色の絨毯敷きの広間に通されて、彼女は、あの嫌な教官の言葉が耳にこだました。

<クの国の高官の、玉の輿>

うつむいて、自分の服の裾を、つまんで見ているガラリアを見て、アトラスは、なんとなく、彼女の思っていることがわかった。慈愛に満ちた微笑を見せ、恋人の白い顎を持ち上げ、

「その服の色、君の髪によく似合っているよ」

「でも、これと軍服しか持ってないのだ。先月分の初任給は銭3袋で…食費と雑費に消えてしまって…新しい、きれいな服を買いたかったのだが…」

<注:銭3袋は、約15万円。詳細は、 「月下の花」用語集 生活文化編 をご参照下さい>

アトラスという男は、この女性に対して、先月の誕生日には、ささやかな贈り物(彼の収入からしてみれば、である)をしたが、高価な宝石やドレスや、ましてや金銭などは、決して贈らなかった。ガラリアが、自分の力で人生を切り開こうと、闘志を燃やす、誇り高い女性騎士であるからこそ、アトラスは彼女を愛した。

彼は、金品などでは、決して、女性の本当の心はつかめないことを、また、金や地位で、釣られる女性には、所詮、真実の愛情はないことを、よくわかっていた。

ガラリアは、文通の中で、日々、どんな職務に就いているか、どんな本を読んだか、どんなことを感じたか、と、彼に書き送っていた。彼女の手紙を読む度に、アトラスは、この女性と、騎士同士の対等な情を結びたいという、想いを強くしていた。遠距離で、愛情を通わせ合うふたりにとって、自分に向けて綴られた、心をこめた文(ふみ)、これに勝る贈り物は、ないのだ!

しゅん、としているガラリアの額にキスをし、彼はこう言った。

「君が、一番きれいに見える装いは、なにか、教えてあげよう!」

ガラリアは、え?そんな、特別な服でもあるのか?と思ったら。

「なにも、着ないことだよ!君は、一糸まとわぬ姿が、一番きれいなのだ」

ガラリアが、着ている服より濃いピンク色に、カッと頬を染めると、アトラスは彼女を抱き上げ、寝室へ向かった。彼の剣は、とっくに硬くなっていた。




 その頃、クの王弟ビショットは、自分の居城におり、老齢の家老から、宿敵の情報を聞いていた。アトラスが国境の別荘に何日も居座り、ドレイク軍で見初めた少女に入れ揚げ、浮かれているようです。ビショットは、上ずった笑い声をたてた。

「ハッ!その女、いくつだと?10代?あやつ、幼子が趣味であったか。そのような子供に熱を上げ、ケミ城を留守居するとは、大した隊長もいたものだ。なにが、精鋭、親衛隊か。」

と、吐き捨てて、王弟は、隣国の、領主の妻から、昨日届いた扇情的な手紙を見て、ほくそえんだ。あの年老いた夫では、我がルーザの、貪欲な肉体を満足させることは、できぬわ。金髪を振り乱し、我輩に噛みつき、ねだる女…全く、食べ頃だとて。家老が、ビショットに耳打ちした。

「殿下、いつもの間者が…まかりこしております」

「うむ、そうか!」

王弟は、部下を一人も付けず、単身、屋外に出た。中庭の夜陰に、黒い毛皮のコートを着た、いつものガロウ・ランが一名、ひかえている。

「ビショット様、これをお預かりして参りました」

と、ガロウ・ランは、赤い大輪の花をひとつ、差し出した。これは、ルーザからビショットへの、密会の合図である。

(おう…そうか、もう我輩を欲しくなったか。クク、あの淫乱、ういやつ…だがな、今丁度、アトラスが油断しておる時。これを討たぬ手はない…密会しているより、きゃつの別荘を…)

と、ビショットが考え込んでいると、ガロウ・ランは、続けてこう言った。

「ルーザ様は、アトラス隊長への、正規の郵送の使者として、御自らお出向きになられるとのことです。明日、国境の、親衛隊長の別荘にルーザ様が来られる予定です」

「なんと!御内儀が、アトラスに会いに行くと?!その上、我輩に<花>を贈るとは、どういう意味なのだ?!」

ガロウ・ランは、はて、と首をかしげ、

「わたしは…ルーザ様の伝言を、そのままお伝えするだけですので…」

ビショットは、いつもの、ルーザの赤い花を持ち、くるくる回しながら、ううむ、と頭をかかえ、自分の意志表示をしないのが、役目である、ガロウ・ランを待たせたまま、考えた。

「ふむ…すっかり妻を信用しているドレイクが、妻の故国の、知り合い宛ての親書を、ルーザに持たせ、遣わしても、不自然ではないか。しかし、わからぬのは、この<花>だ。いつもの密会ならば、アトラスの別荘とは反対方向、ギブン領寄りの隠れ家ではないか…まるで方角が違う…」

狐目のやせぎすな男は、また、上ずった笑い声をたてた。

戦(いくさ)を好まない兄王に仕え、一騎兵の小娘なぞとと「正式なお付き合い」をしているアトラス。それに引き換え、他国の領主の妻を操り、いずれ両国を我が手中に、と野望に燃える我輩。女とは、権力に股を開く者よ!まったく、アトラスとは比ぶべくもない、自分の方が「英雄的」ではないか!

「やはり、我輩とは、器が違うわ。あやつなど、この機会に、葬り去ってくれよう。よし、その方、ルーザ殿に伝えよ。明日、アトラスの別荘で会おう、とな!」




 17歳のガラリアは、サーモンピンクのキャミソールをまだ脱がされず、めくり上げられて、乳房だけ露わにされ、ベッドに横向きに寝かされて、

「あぁっ、あうぅ、う、う、ん!あぁーん、あぁーん!」

と、お尻を突き出して、鳴き声をあげていた。アトラスは、横たえた彼女の、パンティーを半分脱がして、後方から、花を舌で愛撫していた。彼の方は、とっくに全裸になっていた。

「ああ…美味だ…君の蜜」

彼は、ガラリアの花びらを両指で開き、穴の中に、長い舌を、ヌルヌルと挿入させた。ガラリアは、ああ、狂いそうにいい、と悶えながら、それを言葉にはできないでいた。すると27歳のアトラスは、息を荒くしながらも、静かな口調で、

「気持ちいいかい?お花をなめられるのは」

「くぅ…うぅん」

アトラスは、興奮したギラギラした目に、微笑をうかべて、

「気持ちよく、ないの?」

「ううん…違う」

「では、イイ時は、いいって、ゆってごらん」

「そんな、恥ずかしいこと、言えぬぅ、うっ!」

するとアトラスは、また舌を、穴の奥深くへと侵入させ、激しく出し入れした。グチュグチュグチュッという淫靡な音が、天蓋付きの豪華なベッドを揺するように響いた。

「うぅっ!キャァアーアーッ!い…いっ…」

アトラスは舌を抜いてしまい、少し冷たく、言い聞かせた。

「いい、と言わないと、もうなめてあげないよ…」

こう言われたガラリアは、花の奥の奥、自分の子宮が、ピクピクうずいて応えてしまっていることに気付いた。ああ、と顔を枕に沈めて、叫んだ。

「いいっ!いいの、いいのぅ、アトラスぅぅ、お願いぃ…もっと…」

「いい子だ…」

そう、花に向かってささやくと、彼はもっと激しく、舌と唇と、手指で、恋人のそこを、刺激した。彼女の感じやすいお尻の割れ目に、彼の荒い鼻息が吹きかかる。

 ところで。アトラスは、前回ラース・ワウで、ガラリアと寝た際、正常位で3回いたし、いずれも彼女の腹上で、イッていた。前戯&後戯としては、アトラスが、ガラリアの体をさわってなめた、のであった。

 今日の夕刻、この屋敷のあるじは、厨房にやって来て、料理人に、ひとつだけ注文をつけた。

「夕餉(ゆうげ)に、ボンレスの腸詰めを出せ」

吸血獣ボンレスは、バイストン・ウェル全土の森林に生息する動物で、全長70センチほど。巨大な茶色いナメクジが伸び縮みすると想像してほしい。人間を含む、他の動物の生き血を吸うが、その肉は美味で、煮てよし、焼いてよし。特に、その腸に、その肉を詰めてスモークにした、ボンレスの腸詰めは、人々に広く親しまれている料理であった。が、この主は、今夜特に、ボンレスの腸詰めが食べたかったわけではない。

 さっき、このふたりは、赤いビロード張りの椅子に腰掛け、食卓に向かってフォークを動かしていた。召使いが、アトラスお待ちかねの、腸詰めが数本乗った皿を、ガラリアの前に置くと、とたんにこの屋敷の主は、じいっと、ガラリアの一挙手一投足に注目した。

 17歳の彼女は、長さ15センチ・直径3センチの腸詰めに、赤みがかった肌色のソレに、右手に持ったフォークを、ブスッと差し、あんぐりと赤い唇を開けて、丸い先端を、ぱっくぅ〜とくわえた。そして噛みちぎって、もぐもぐと食べ、またぱくぅ〜っと。そして彼女が、対面しているアトラスをふと見たら、そこには、フォークをタテに握り締めて自分を凝視し、口半開きの彼氏がいる。ガラリアは口をもぐもぐさせながら、

「どうかしたか?」

「い、いいいやっ、なんでもないのだ!腸詰めは、好きかい?」

「うむ、まあ好きな方かな」

「…もっと食べて…ぁぁ」

きょとんとしたガラリアが、また柱状のソレを、ぱっくぅぅ〜っとくわえて・・・アトラスは、このテーブルは、我が剣に持ち上げられて、天井に届くのではないか、と思った。ガラリアは、紳士アトラスが急に、挙動不審になった理由などわからなかった。

 そして、今ベッドで寝転んで、アトラスは、彼女と横向きに向かい合い、顔を見つめ、いや、口元を見つめ、彼女の両手を、自分の両手で握り胸の前に置き、策謀を練った。ガラリアは、まだ、キャミソールとパンティーを着けていた。アトラスは、まずは、この子に、自分がどれほど惹かれているかを話してみようと考えた。

「1ヶ月半も会えなくて、本当に淋しかったよ、ガラリア。毎日多忙であったし…」

彼女は、ふむふむと、素直にわたしの話しを聞いている。よし、話しを、剣系統に持っていこう。けんけいとう?

「ずっと、君のことを思い浮かべては、剣を磨く日々であった…」

「えっ」

と言うなり、ガラリアは、アトラスの手を振り払い、車エビのようにはねのき、即座に1メートルぴょーんと、シーツの上を後退し、枕をひったくって抱きかかえ、自分の顔を覆ってしまった。その、引き方を見たアトラスの方が「えっ」であった。

「なっ、なんだ?どうしたのだ。なにをそのような」

ガラリアは、白い枕の上端から、両目をのぞかせ、怪訝な表情をしている。

「…アトラスでも、そんなことをするのか…」

ええーっ!まじっすか?!彼女、剣を磨くことを、ヘンタイのすることだとでも、思っているのか?!

「いや、あの、ガラリア?ガラリア?剣はね、みんな磨くものなのだよ。」

「うそだぁ」

そんなドスの効いた声で否定されると、おにいさん困っちゃうよ!剣を磨いたって言ったら、カノジョ、わたしを睨みつけている!怖いよー。

「うそでは、ない、男というものは、あのね、溜まるのだ」

「なにがたまるのだ」

「…白いのが…」

「どこに貯蔵されるのだ」

「ここ…定期的に、出さねば、ならぬので…」

「定期的とは、何日おきだ!キリキリ白状しろ!」

刑事さんに尋問されてるみたいだよ!ガラリア!わたしは何の容疑で取り調べされているのだ。

「疲れて寝てしまうと、しない日もあるが…ほぼ毎日であろうか…」

「毎日だと!男は誰でもそうだと、言うのか!うそだ、うそだっ」

「他の者は、毎日ではないかもしれぬが…若くて元気ならば、皆、似たようなものではないかな…」

ガラリアが考えていた<剣を磨く>とは、自分が生理前にしたくなる頻度か、それとも、よほどモテない男がさみしぃ〜く、仕方がなぁく、するもの、ぐらいの認識だった。まさか、白いのが、それほど頻繁に出たがるものとは、男は誰でもそうなのだとは、思わなかった。ガラリアの詰問は、まだ続く。

「若いとは、何歳から何歳までなのだ」

「わたしは、12、3歳頃から始めたかな…この先、何歳までするかは、わからぬな…」

「一生涯でそれほど磨くのか。なぜだ。恋人があっても、するのは、なぜだッ。けしからぬ!」

相当、間違った解釈をしてしまっているガラリアに、アトラスは、焦って、説明した。彼の、その剣は、げんなりとしぼんでしまっていた。

「君と、毎日一緒にいられたなら、しないであろうが(いや、するかな…)、日々、出したいものであるから、うむ、会えないのだから、恋人である君を思って磨くしか、ないのだよ」

ガラリアは、まだ枕を抱えたまま、ふむ、それならば許せる。…いや、待てよ。おや?おやおやおや?

「待て。では、恋人も妻もいない、満13歳以上、死にかけ以下の元気な男は、毎日、何を思い浮かべて、磨くのだ」

アトラスは、なんだか悲しくなってきた。剣を磨くレベルで、これほど問い詰められては、わたしが今から彼女にさせたい行為は、夢のまた夢ではないか。超ヘンタイ呼ばわりされるであろうなぁ、と。

「その場合は…身近な、好ましい女性を、おかずに」

「おかずだと!なんだ、人を料理みたいに!」

「ぁぁ…悪かったよ、つい下世話な言いようを、してしまった。片思いでも、好きな女性と契ることを夢見て、磨くのだよ…」

ほー、そういうものなのか。と、ガラリアは、ラース・ワウの男たちで、自分に興味を持っているとおぼしき者を、思い出し、あいつら毎日、磨いているのか。

はー、毎日っすか、先輩!

男とは、随分たいへんな労力を要す生き物なのだなぁ。ミズル殿は御内室があるから、磨かないのだろう、あのおじさんがそんなことしているのは、想像したくもないが、とかなんとか、枕をいじりながら考えた。

 アトラスは、天井を見上げ、遠い遠い目をして、心の中で叫んでいた。

 わたしは、このおぼこい少女に、アレをさせたいのだ。アレとは、即ち、「聖戦士ダンバイン」を見た10人中9人が、「フェラリオ」と聞いた瞬間に思い浮かべる、一文字違いで意味大違いの、アレだ。見・フェラリオとか、得・フェラリオとか、思い浮かべるアレだ!全ての男の夢だ!男子の本懐だ!地上人だろうと、バイストン・ウェル人だろうと、カシオペア座第28惑星系の宇宙人だろうと、アレが嫌いな男など、おらぬのだ!賢明なる、読者諸兄よ。助けてくれたまえ。わたしと一緒に、この歌を歌ってくれたまえ!

◆挿入歌 「男はみんなフェラが好き」◆

作詞:アトラスさん  日本語訳詞:筆者
作曲:とある有名な童謡のフシで歌うと合います

♪おーとこはみんなーフェーラが好きー  フェラーがあるから生きるんだー

 おーとこはみんなーフェーラが好きー  フェラーがあるから笑うんだー

 わーが剣をーおおぞらにー すかしてみーれーばー

 ドークドークみなっぎるー ぼくのしーろいのー

 ミズルだーって バーンだーってー ドレイクだぁぁってーー

 みんなみんな 大好きなんだ フェラチオなーんーだー♪




 と、心中で斉唱し、めげないで頑張ろう、という気になったアトラスは、まだ枕を抱きしめているガラリアの手をとり、

「さ、さ、わかったね?こちらへ、おいで」

ガラリアは、眉間にしわを寄せつつ、彼の胸元に近づいた。アトラスは、邪魔者の枕をどけて、いとおしい、剣をくわえさせたい唇に、自分の唇を合わせた。ガラリアは、キスに素直に応じたから、アトラスはまたいい気分になり、キャミソールをがばぁと脱がせた。ガラリアは

「あう」

と、うなって、乳房を両手で隠したが、彼は彼女の手をどかせてしまい、すぐもみしだいて、口を乳首に押し付けてチュウチュウとなめてきた。

「きゃうぅぅん!あん、あん、あ、あっ」

キャウーンだって、これだもの。さっき恐い顔で「キリキリ白状しろ!」なんて言っていたのと同じお口で、こう鳴かれるから、君はたまらなくかわいいのだよ。アトラスは、自分の唾液でヌラヌラになった両乳首を指でクリクリしながら、キャウーンのガラリアの悶える顔を見下ろし、また問い掛けた。

「イイかい?ここは、イイのかい?」クリクリ

「くぅぅ…あっ、うう、いい…」

「ここはガラリアのなにかな?」クリクリ

「うぅっ、ち、ち、ち、ちくび…いやあっ!」

「いやなの?やめていいの?」クリクリ

「いやぁ」

「では、ゆってごらん」クリクリ

「あう!う、な、なにを…」

「わたしのー、ちくびをー、なめてって、ゆってごらん」クリクリ

アトラスさん、挿入歌斉唱でよほど勇気づけられたらしい。ガラリアは、こういう言葉責めに、ことさら、弱かった。

ガラリアという女性は、まず触感が天才的に敏感であると同時に、「言葉」にも敏感だった。これまで本編で述べてきた、ガラリアの人生で、彼女は、常に、「この人は私をかばって、こう言ってくれた」とか、「この人は私を<女性><あなた>と呼んだ」とか、こと細かく、他者の自分への発言に、鋭敏に反応するのである。それは、彼女が、いかに、自己の存在意義(レゾン・デートル)に対して、<不安>であるか、の表れなのである。

 あいつは、こんな悪口を言ったから敵、この人はあの時、こういう事を私に言ったからいい奴、というふうに、他者の発言への評価が厳しい。それはイコール、彼女の、精神的弱さなのである。ガラリアは、教官のように、自分を侮辱する者があると、カッとなって怒りを顕わにする。怒りや、悲しみを、我慢できない。そういった「負」の精神性を、自分の中では処理できない。怒った時に、常に他者にぶつけないと、自分が耐えられない。

 彼女が、自分に対しての不愉快な言動を聞き、立場や職務上、それに直接怒りをぶつけられなかったとしても、彼女はその発言者を、心中で「いやな奴」と決め付けてしまう。

「いやな奴」に、反省の機会を与えない!話し合って、わかってもらおうという努力ができない!

この自分の欠点、これこそが、彼女が、闘うべき「敵」であると、気がつく日が、来るのだろうか。綴り方の先生が言った、<戸惑いを恐れない人間>になれるだろうか。眼前の恋人アトラスが、閲兵式で言った、<千人の敵と闘うより、たった一人の自分との闘いの方が厳しい>の意味を、自分に突きつける日が来るだろうか。

彼女の精神的<不安>の根源、それは、「なぜ父親の汚名を、自分がそそがねばならないか」この「なぜ」を、自分に問わないことにある。騎士だから、敵前逃亡兵の娘だから、という業(=他者からの評価)に縛られ、己が精神を解放できないでいるから、この「なぜ」が言えないのだ!精神の解放とは、即ち、自己の<個>の確立である。

本編では、彼女が、人との出会い、交わりを通して、<個>を確立していく様を描いていきたい。今、ガラリアのビーチクをクリクリしている人も、彼女を変えていく、情愛に満ちた者の一人である…

 触感と言葉に敏感なガラリアは、アトラスの言葉責めに、クリクリによって、もう花をとろとろに濡らしていた。してほしい、もっとして。してもらうには、言わないといけないの。

「あぁ…私の…くぅ…乳首を、なめて…きゃうーっ!は、恥ずかしいぃ」

すると彼は、彼女がもっとよがるように、濡れた舌を乳首にからませ、吸ったりころがしたりした。ガラリアは嬌声をあげて、シーツに強く爪を立てた。

 アトラスはそうしながら、彼女のパンティーを脱がせてしまい、彼女が一番、きれいに見える装い、にした。そして口を、彼女の、剥き出しの花に移動させ、種を舌先でむいた。ガラリアは絹裂く悲鳴をあげる。

「キャァアアアアアッ!」

すっかり、飢えた性獣と化したアトラスは、ガラリアの花全部を、ベチャベチャとなめ、吸い、指で花びらを開いて、内側まで凝視し、またそこを強くなめて、急に顔を上げて叫んだ。

「アァッ!もう、だめだ…ガラリア、わたしは、耐えられないぃっ…」

なにが耐えられないのだ?貴方は私を好きにいじりまくっているではないか?貴方は、私を、好きにしていいのに、とガラリアは思っていたが。

 彼は、おもむろに、ガラリアの顔と向き合い、少女の白魚の両手をとって、そのまま彼女の顔をじっと見た。なに?と小首をかしげていたら…

あら、おやまあ。なんでしょうか。彼は、私の両手の平を、自分の硬くなった剣に持っていき、触らせようとします。触ってよいものなら、はい、触りますが。このように、両手で握ればいいのでつか?ぎゅっ。すると剣の持ち主が、

「うおぉぉぉぉぉおおおっ!んがぁー」

んがぁーって、怪獣の咆哮ですか?ガッダーですか?キマイ・ラグですか?円谷・東宝どっちですか?ガラリアは、男性も「あえぐ」ことを、まだあまり知らなかったので、

「痛いのか?」

と、本気で心配して尋ねた。怪獣は、

「いたく…ない…んあああもっと触ってぇぇいいいい」

言葉遣いがおかしくなってますが、大丈夫ですか、おにいさん。ではもっと触ります。剣の長い部分をきゅっきゅっきゅっ、先端の丸い部分を指と手の平で、なでなで〜してみました。

「ひぃぃぃぃいいいいッ!んんッ!ああッ、もっと、もっと、そこ!」

先端がヨイらしい。出っ張りを両手で包んで、そこを下から押し上げるようにくいくいしました。

「いぎゃぁぁぁぁぁぁッ!」

「痛いのか?痛くないのか?どっちなのだ」

「ヨイのだぁ!ちょうどよく、ヨイの、だ、んんうがぁ」

「剣ってヘンな形なのだよなー。先っちょが割れてるが、ここから白いのが出るのだな」

と、彼の、濡れた割れ目を指でなぞります。

「きぇぇぇぇえッ、うう、ああ、いいっ」

「今は、透明な液体が出ているな。これはなんなのだ」

「うぅ、それは、き、君の花に入れる時にぃ…ああ、入れやすいように出る…んんー」

「フゥーン、私の蜜と同じ作用なのだな。しかし、出る穴はひとつだな。ここの」

割れ目を両方からぐいっと開いてみました。

「いーいいいい、ハァ、ハァ、ああう」

「ここから、白いのと、この透明なのと、小用も、出る?なぜ混乱しないのだ。なぜ穴が一個なのだ」

アトラスは、長い睫毛が、自分の先端に触れそうな距離で、かわいいガラリアが剣を見つめ、両手指でいじりまわされ、その上、妙に冷めたコメントまでされ、その、あどけないこと…もう、もう、たまらんわ!

「アァッ!ガラリア!キスして!」

するとガラリアは、剣からパッと手を放してしまい、アトラスの首に抱きついて、彼の、唇に、チュッと軽くキスをした。言われた通りにしたのだ。

「ち、ちがう…」

「ハァ?」

怒った顔がまた、ヨイ、が、ちがーう!アトラスはさっきより乱暴に、彼女の顔をぐいっと剣に持っていき、とうとう、本心を打ち明けた。

「ここに、君の口で、してくれッ!!」

「…ん?なにを?」

「剣にキスしてほしいのだぁ!」

「………」

非常に怪訝な顔つきになり、彼女は黙ってしまった。

いかん、やっぱり、ヘンタイだと思われたのだろうか。フェラぐらい、ヘンタイでもなんでもないのだ。男はみんな望んでいるのだ。わかってくれ。頼む、そんな軽蔑した目で見ないでくれぇー!騎士だろうが、親衛隊長だろうが、フェラ好きは治らない、不治の病なのだ!完治しないのだ!死ぬまでフェラは…すると。

「剣にキスする?こうか?」

彼女は、ひょいっと両手で剣を包んで、濡れたくちびるをぱっくぅ〜と開けて、先っちょを、ちゅむーとくわえてしまったではないか!

「うなぁぁぁぁぁぁぁんがぁぁぁぁーーおおおおおおッ!!」

円谷なのか東宝なのかどっちなのだ。その吠え方はゴジラだな。ゴジラならば、昭和版なのか平成版なのかどっちなのだ。どっちでもいいが、剣に口をあてがうのが、そんなに叫ぶほどヨイのか。私も、花をなめられるのは感じるからな、男もそういうものだったのか。

あふ…剣をなめるのって、なんだか…私自身も、感じるみたい…ううーん、ぺろぺろ。おいしい…私の花をなめている時、彼もこんな気分なのだな。ちゅむちゅむ、ぺちゃぺちゃ。

「ぎゃぁぁぁっ!ああ、ガラリア、いい、上手だ、あああーイイッ!うぅぅぅ、いいっ、そ、そ、そう、音をたててなめてぇぇぇ」

私の彼氏は壊れてしまったようだ。人格を破壊する作用があるのだな、剣なめは。さて、なめながら観察してみると、丸い貯蔵袋も触りたくなったぞ。こうかな。くいくいっ、もみもみ。

「ふぁぁぁぁぁぁ」

こっちも感じるらしい。この、妙な寄生生物は、花に差し込む用途だけではなく、こうして女に触られたりなめられたりすると喜ぶものなのだなぁ。と、ガラリアはずっとくわえて舌を動かしながら考えていた。アトラスは、性獣なので、より、やらしーことをさせたくなった。完治しないな、この病は。

「あぁ、ガラリア…いい子だ…お口はそのままで…もっと舌を、そう、そう、イイ、そのまま、お喋りしてごらん…」

「ファヒホ?」

「ぐあーッ!そう、くわえたまま、わたしの顔を見上げて!そう!上目づかい!言って、アトラスの、剣が好きって、ゆって!」

「ファホファフホゥ、フェンハ、フキィー」

「ぐあーぁぁぁッ、もう一回!」

「フキィー、ファフォハフホー、フェン、フキフキー」

「ぬわーーーーーーたっ!いい、イイぃッ!ガラリアのお口が、好き好きだぁー」

 こうして、アトラスは、男子の本懐を果たし、ガラリアは、フェラの効用を学習し、夜はふけていった。筆者は、なんだかとても人生が楽しく感じている。♪おーとこはみんなー、フェーラが好きー♪




 翌朝、ガラリアが、天蓋つきのベッドで目を覚ますと、同衾していたはずの人は、そこにいなかった。朝と言っても、アトラスは昨夜、夕食以降6時間ほど寝かせてくれなかったので、目覚めた時刻は、正午近い午前だった。

 彼の姿を探そうと、ガラリアはベッドから立ち上がった。全裸で。すると、ベッドサイドのテーブルに、彼の水色の便箋が1枚ある。紺色のインクで、こう書いてあった。

『愛しいガラリア、おはよう!わたしは、国境にて用事があるから、出かけて来るよ。昼すぎには戻るから、別荘内で、好きなように過ごして待っていてくれ。食事は、召使いに言って、好きなものをお食べ。ではまた後で!』

いつも通りの、流麗な筆記体である。この整った文字を書く人が、昨夜、ああも狂った男性と同一人物とは思えないな。凄まじい狂い方であったぞ。

彼は、私の唾液でぬらぬらになった剣を、花に挿入し、さんざん突きまくって、やらしー言葉を言わせ、ああイキそうだ、ガラリア、目を閉じて、と言うから、なにかと思ったら、あろうことか、私の顔に、白いのをビュッビューと出したのだ。顔じゅう白いのまみれになって、口にも耳の穴にも流れ込み、私の青い髪にも飛び散った。しかもアトラスは、その私のヌルヌルの顔に、出した後の剣を押し付けて、私の顔に座って腰を動かして…

何回したかな。途中1回、お風呂に入ったな。お風呂でも彼は、やらしーことをいっぱい、要求してきて、その内容たるや、筆舌に尽しがたい行為ばっかりで、浴槽内でも挿入したが、あの時は彼がイクまではしなくて、またベッドに戻って…彼が白いのを出したのが、計5回か。あー花が、ヒリヒリするぞ。

 ガラリアは、ひとりで朝風呂に入り、持参してきた洗い立ての白い下着をつけ、ピンク色の制服を着て、寝室から出た。城壁の見渡せるバルコニーに出ると、城壁の向こうには、広々とした森林がある。その森の、視界の切れる辺りが国境だ。国境にて、なんの用事があるのかな、と思いながら、ガラリアは、ヒリヒリする花を気にして、歩き方が不自然になりながら、食堂へ向かった。

 ビショット・ハッタは、手勢の騎馬隊を率いて、ルフト領とクの国境との、抜け道に来ていた。ルーザがやって来るとしたら、この道に来るはず。宿敵アトラスの別荘は、視界に入らない、まだずっと遠方である。ここらで愛人と落ち合い、一挙にアトラスの寝所を襲ってやろう。

昨夜から、別荘には、いつもの黒いコートのガロウ・ランをひそませてある。小娘と褥を供にし、寝込んでいるところを見張り、奴が起き出したら、すぐ我輩に知らせるように、ガロウ・ランには言ってある。まだ連絡がないところを見ると、クク、あやつ、昨夜は張り切りすぎてまだ寝ておるのだな!馬鹿め、我輩の策にはまったな。

率いる兵の中には、手だれの傭兵を連れてきておる。アトラスの首を取れば、報償金をはずむと、申しつけた。金で言うなりに動く連中よ。ガロウ・ランも、コモンも、男も女もな…勝てば官軍、権威は金で買えるのだ。

 すると、家来が、「殿下、ルフト領の方から、馬に乗った者が来ます」と言う。見ると、暗い森の道を、一頭と一人がやって来る。暗い木陰に、黒い馬なので、よく見えぬが、ルーザか?密会ならともかく、正規の郵送に、一人で来るとは、妙だな。

 馬上の人が、ビショットの視力で捉えられる所まで来た。王弟殿下は、上擦った声をあげてしまった。黒い馬には、黒髪の、マントのついた薄茶色の軍服を着た…

「ウアッ!」

「おや、おや、ビショット殿下には、それがしの領地にて、かようなものものしい軍勢を率い、何をお探しでおられるか?」

「アトラス!その方、なぜ…」

「なぜ、と申し上げたいのは、それがしの方であります」

例え、王弟であろうと、君主と主従契約関係を取り結んだ、騎士の、それも国内最高位の親衛隊長アトラスの領地に、断りもなく軍勢を率いて来ることは、国王への謀反でもあり、内戦の布告行為である。

 ビショットは、アトラスを討ちに来たのだが、殺してしまえば死人に口なし、勝てば官軍。しかし事前に当人に発覚しては、「王弟御謀反」の汚名を着ることになる。

 いや。アトラスはたった一人だ。こちらは大勢。今、討ち取ってしまえばよいだけのこと。ビショットは、傭兵たちに命令しようと振り返った。

「ものども、ゆけいッ!」

ところが、王弟の兵たちは、硬直し、動こうとしない。

「なにをしておるか!我輩の…」

すると、ビショットのわきにいた家来が、小さい声で言上した。

「殿下!知らぬ間に、囲まれております…」

「なにィッ…」

青くなって見渡すと、ビショットの手勢、百名余は、後方も、左右も、周囲ぐるりを、数百騎の、精鋭親衛隊に、囲まれていた。アトラスの部下たちは、既に昨夜から、ビショットの後をつけて来ており、遠巻きに見張っていた。そしてビショット隊の位置を隊長に知らせ、アトラスは、ゆうゆうと、反対方向から、黒馬に乗って現れたのだった。

 親衛隊は、手に火縄銃や弓矢を構え、ビショットたち一人一人に、もう狙いを定めている。多勢に無勢だ…しかし、なぜ、長年雇っているあのガロウ・ランが、知らせに来なかったのだ?アトラスがあの間者を、「もっと高い報酬で雇う」と取り込むことは、予想して、アトラスの申し出を受けたら、そちの家族は皆殺しにすると、脅しをかけておいたのに。

 う、う、とうなるビショットに、アトラスは、ふふ、と笑みを見せた。黒馬に乗った騎士は、マントの陰から、赤い大輪の花を、一輪取り出し、優雅にその香りをかいで見せた。青ざめた王弟の顔色が、また一段とひきつった。

「そ…その…花…」

と言うなり、震えてビショットは、口篭もった。

「ふむ、よき香りの花ですな。この花は、どこにでもよく咲いております。殿下がお好きな花でありましょうか?」

「きさま…」

アトラスは、馬を王弟殿下に歩み寄せ、ビショットの馬の足元に、赤い花を投げて、相変わらず静かな口調で言った。

「花を贈る、受け取る、これまた、どこにでもよくあるお話し。されど、花の正式な持ち主は、御一人。正式な花を奪われた御仁は、盗った者を許しはしますまいな?」

こやつ、我輩とルーザとの密通を、ドレイクに告発すると脅しをかけてきよった!ドレイク・ルフトを敵にまわしては…

アトラスは、数百の部下たちに向かい、右手をかざし、威厳あふるる大声で命じた。

「皆の者!ビショット殿下は、居城へご帰還される!道を開けて差し上げよ!」

号令一下、親衛隊は、ビショット隊の後方から移動し、道を開けた。弓矢は構えたままである。悔しさで全身をこわばらせるビショットは、それでも、アトラスに負けていないつもりの、威厳を持たせた声で、

「ひけ、ひけい!帰るぞ、このような所、と、遠乗りには向かぬわ!」

 遠ざかる王弟の後ろ姿を見送りながら、アトラスの腹心の部下が、いたずらっぽい笑顔で、隊長に語りかけた。

「お疲れですか、隊長」

「かなりの、お疲れだ。なにせ寝ておらぬからなぁ」

「ハハハハッ!よきお疲れでは、ありませぬか!」

「足腰に、きた。馬の鞍が、ひびくぞ…」

「ハハハッ!早く別荘にお戻りになって、お休みになって下さい。後は我々にお任せを!」

「別荘に戻れば、これが、また、休んでなぞおられぬのだ。彼女を見るとなぁ」

「隊長の、おノロケを聞くのが楽しみでありますよ。よきお疲れ、よきお疲れ、ですな」

この、頼もしくも仲良き部下たちに、笑顔で見送られ、アトラスは黒馬を別荘へと走らせた。




さて、ビショットの間者であったはずの、黒いコートのガロウ・ランは、なぜ、王弟殿下に急を知らせなかったのか?そして、ルーザの赤い<花>は、どこから贈られたものだったのか?

 このガロウ・ランは、言うまでもなく、もう、アトラスの傘下に入っていた。ルーザからの伝言も、<花>も、アトラスの仕組んだ罠だった。

ビショットもルーザも、このガロウ・ランに仕事を命ずるには、金を、指ではじいて投げるだけであった。面倒な仕事であれば、投げる金を多くすればよかった。裏切ったら、お前も家族も殺すと脅せばよい、と思っていた。

 黒髪の騎士は、このガロウ・ランと対面した時、馬から降り、彼の目の前に、片ひざを付いて屈み、彼の顔をしっかり見据えて、笑顔で問い掛けた。ガロウ・ランに対して、騎士が、このような素振りをする事自体が、信じられないことだった。アトラスは、間者に、優しい口調でこう言った。

「その方、家族はどこにあるのか」

「は、はい、ビショット様の領地のはじの…ガロウ・ランの居住区に…村があります」

「では、その方の家族も、村じゅうで、それがしの領地内に移り住めるようにしよう。田畑を与えるから、穀物を作って暮らすのだぞ」

黒いコートの男は、驚愕した。ガロウ・ランには、農業は禁じられていた。飢えをしのぐために、死体処理や、忌み事の仕事をして、わずかな報酬をもらうか、間者になって家族に仕送りをするか、それでも、妻子を食わせられない場合は、夜盗やおいはぎをするしかなかったのだ。

「よいか、その方。これからは、お国のための、間者として働けよ。村の者らに、伝えるがよい。汗水流し、田畑を作れと。山賊になり下がってはならぬと、な」

黒いコートの、ガロウ・ランは、地面に両手を付き、震えて、この騎士に忠誠を誓った。自分の意見を言ってはいけないのが、ガロウ・ランであり、自らの意志で、騎士を慕うことなど、ないのが、ガロウ・ランであったのに、彼は、アトラスのためなら、生命を投げ打って働こうと、決意した。土には、彼の涙が、ぽたぽたと落ち続けた。

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