月下の花

第37章 ダンバインをおとせ


アメリカ空軍パイロット、トッド・ギネスが、とつぜん語気を強めた。

「ガラリアさん、あそこだ、ゼラーナだ!」

ボンレスの森の中央に、マウンテン・ボンレスと呼ばれる山が、そそり立っている。山頂部に近い断崖の陰に、航行するゼラーナの船尾が、見え隠れしたのを、トッドが発見した。

青いダンバインは、バラウから離脱し、オーラソードをひきぬいた。ガラリアも、迎撃態勢に入り、ゼラーナを追尾せんと速度を上げた。セザルは即座に、無線機を使い、味方に集合を呼びかけた。

やや、予想外の展開になった。ガラリアたちに気がついたゼラーナが、拡声器を使って、呼びかけをはじめたのだ。女の声だ。

「マイク・テスト、マイク・テスト。(プワーン。←ハウリング音) そちらに、地上人はおられますかー!アメリカ人のトッド・ギネスさん、いらっしゃったら、返事をしてくださーい!」

だったら、なんだよ?トッドはいぶかり、一声も発さない。

「え?ショウ・ザマ、なんですって?そう、青いダンバインが、トッド・ギネス専用機なのね?(プワ、プワーン。←ハウリング音) トッドさーん、こちらはゼラーナ、正義を愛するアメリカ人がいまーす。こちらに投降してください。繰り返します、正義は、ゼラーナにあり!星条旗のもとに、団結しましょーう」

拡声器の声の主は、ガラリアが、よく知っている女だったので、彼女は激高し、さけんだ。

「おのれマーベル・フローズン!ショウ・ザマだけでは飽きたらず、トッドまで誘惑するつもりかッ!」

ただし、バラウには、無線機は標準装備しているが、拡声器はついてない。セザルが、これドロとちがうから、拡声マイクはないのさと教え、相手としゃべりたいなら、無線機を使ってみるといいさと、すすめた。ガラリアは操縦桿上部備え付けの、小型集音マイクに、ぴったりくちをつけて(そんなに近づく必要はないのだが)、怒鳴り散らした。

「だまれ、こざかしいッ!マーベル・フローズン、トッド殿は、我が軍の聖戦士だ!おまえみたいな、すべたの味方になるものか。それより、ダンバインはどこだっ。かえせ。うちの兵器だぞ、かえせーっ!」

先方に聞こえたらしい。拡声器の声が、いちだんと、高まった。高慢ちきになったという意味で。

「こんにちは、ガラリアさーん。くすくす。ダンバインは、もう、あたしたちのものになりましたよー。証拠をお見せしましょーう。」

後部座席のセザルがさけんだ。

「上さ!ショウが来る!」

空色のダンバインが、青いダンバインの真上から、岩石が落下するように急降下し、重力を利用して、オーラソードをつきさした。意表をつかれたトッド機は、左肩をざっくり斬られて、大破した。コクピットのトッド・ギネスは、脱出しようと、ハッチを開き、バラウの救援を待った。青いダンバインは、発火しながら、落下している。

すんでのところで、ガラリアの到着が間に合った。さきほどまで、青いダンバインが腰かけていたバラウの上部に、飛び降りることができたトッド・ギネスは、悔しさに歯がみし、ボンレスの森に落ちて爆発する、青いダンバインの最後を見とどけた。

「ちくしょう…あの拡声器に、だまされた。女のそばでショウ・ザマが、相づちうったように、小芝居しやがって。あん時はもう、ジャップはダンバインで出撃した後だったんだ。くそっ!」

セザル・ズロムが、後部昇降口を開けて出てきて、トッドを操縦席内部へひき入れた。安全を確認したガラリアは、集結しはじめた友軍を背中に、ゼラーナに向かって、爆撃を続けた。彼女の頭には、わりかし冷静な作戦がたっていた。

「落とすべきは、ゼラーナと、ダーナ・オシーだ。今なら、ゼラーナを離脱しているオーラ・バトラーは、ダンバインだけだ。うまくいけば、敵機を全滅させ、我がほうに、ダンバインを取り返せる。」

そうは問屋がおろさなかった。敵もさるもの、もうダーナ・オシーが発進していた。ギブン家側のオーラ・バトラーは、これで2機!その時、バラウのぴったり後方に、赤いドラムロが接近していた。轟音をたてドラムロは、バラウの横を通りすぎ、空色のダンバインに襲いかかった。

ボンレスの森、上空に、太く麗しい、男の声がひびいた。

「いたか、ショウ・ザマ。この裏切り者めが!ダンバインもろとも、たたき落としてくれる!」

無線機ごしに、バーン・バニングスの声を耳にした、ダーナ・オシーのパイロット、マーベル・フローズンは、女穴に愛液がしみ出るのと同時に、くちおしい憎しみに、炎を燃やした。

「ショウ、援護して!ドラムロを攻撃するわ!」

「いくよ、マーベル。やってやるッ!」



【閑話休題】

どうでもいいが、よくないが、富野ロボットアニメの戦闘シーンでは、マシンパイロット同士が、頻繁に会話をする。

これは、無線機と、必要ならば拡声器が、同期になっていて、無線が常にオープンになっており、集音マイクとスピーカーが高性能で、敵味方の周波数が、それぞれひろえていなければ、成り立たない現象である。ガンダムシリーズなら、「ニュータイプなので、超能力で会話してます。」で、済むかもしれないが、オールドタイプの、普通の兵士同士だって、戦闘しながら会話している。

『聖戦士ダンバイン』も、しかりである。おまえら、オーラ・マシン同士で、会話しすぎなのだ。飛行しながら、ののしりあったり、ぶつくさ愚痴ったりしてるところに、そばを通りすぎていっただけのオーラ・マシンのパイロットが、合いの手を入れたりしている。それも、敵味方、関係なくである。

この小説では、厳密に科学的な設定はできないものの(できんのかぃいっ)、それなりに整合性を持たせて記述する。人間関係を描くことがテーマの小説であるから、しゃべった言葉が、意志表現が、どのような媒体で、相手に伝わるかという点は、重要だからである。

バイストン・ウェルは、通信装置が未発達な異世界なので、無線の周波数は混線せず、使い放題である。いま、アの国で使用されている、オーラ・マシン搭載通信機は、ドレイク軍も、ギブン家も、同じ周波数帯の規格が採用されていた。開発国ではない、ドレイク軍以外の工房で作られた通信機は、ショット・ウェポンとゼット・ライトが設計したモデルの、猿まねしか製作することができないためである。

【閑話休題おわり】



さて、赤いドラムロのバーン・バニングスは、空色のダンバインと一騎打ちをしていた。バーンは、憎悪のありったけを、日本人少年にぶつけた。

「餓鬼めが!きさまのせいで、われわれの計画が、台無しだ。死ねい、ショウ・ザマ!」

「ガキで悪かったな!これで、ダンバインと呼べるのは、おれの機体だけになったぜ、バーン・バニングス。」

組み合う2機と離れて、マーベルのダーナ・オシーは、ゼラーナの援護につとめ、退路を確保しようとしていた。ゼラーナは、北方に向かいたかった。アの国に居場所のなくなったニー・ギブンは、北の隣国、ミの国の王室に、身をよせる計画を立てていた。ミの国王、ピネガン・ハンムとは、縁故があり、また、ピネガンは、よくも悪くも「お人好し」な王として、知られていたからだ。

一例として。かつて、クの国で内戦が勃発したとき、討伐された王室親衛隊の落人(おちうど)を7人、ピネガンはかくまった。恩を受けた7人はいま、ピネガン・ハンムの愛娘、エレ・ハンム王女の親衛隊として働いていた。

彼らこそ、ガラリアの婚約者であった、故・アトラスの部下である。

ゼラーナの操縦席で、指揮をとるニー・ギブンは、いらいらして、ほうぼうを叱りつけていた。

「ショウ!いつまでも、ドラムロにかまうな。ダンバインを傷つけずに、逃げるほうが優先だぞ。マーベル、ドラムロの気をひきつけろ。その隙に、ダンバインは、北へとべ!ゼラーナも、針路、北へ!ドワ、取舵いっぱい!」

マーベルは命令どおり、ドラムロの背後から、砲撃をくらわした。死ねばいいのだ、この男っ!かわしたバーンは、しかし、ダンバインから離脱せざるをえなかった。騎士団長は号令した。

「全機、ダンバインに集中砲火!ダンバインを、やつらに渡すな。ここで、打ち落とすのだ!」

ガラリアはバラウで、小鳥のように俊敏にかけまわり、ダンバインに砲撃した。同席しているトッド・ギネスが、落とせ、落とせと、檄をとばした。

しかし、さすが、ショット・ウェポンとゼット・ライトの精をつくした労作だけあって、ダンバインは加速し、とび去った。ゼラーナも国境線をこえ、ミの国に入ってしまった。機影が遠く、夕闇にかすんでゆく。

とたんに、ドラムロのバーンも、ガラリアも、追撃をやめてしまったので、アメリカ人のトッド・ギネスが、

「おい、みんな、どうしたってんだよ?いま、全機でかかれば、落とせるぜ?」

落胆している操縦席のガラリアに代わり、セザル・ズロムが解説した。

「だめさ、聖戦士トッド殿。あいつら、国境をこえてしまったのさ。アの国の北に位置する、小国だけど、有能な軍隊で知られてる、ミの国に、入っちゃったさ。うかつに手出しできないさ。」

自分のマシン、青いダンバインを、日本人少年に破壊されてしまったトッド・ギネスは、咆吼した。


「ジャップめっ!この御礼は、たっぷりさせてもらうぜ!」

第37章更新後書き

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