月下の花

第36章 ガラリアの決意


バラウを操縦するガラリア・ニャムヒーは、仕事熱心な職業軍人であったが、悩める乙女でもあった。彼女は、昨夜、重大な決意をかためた。いま、そのことが脳裏をよぎった。

ガラリアの心には、部下セザルが言った「きれいどころ」というほめ言葉が、じんじんと残り、また、ゼット・ライトと「べったりくっついていた」様子を、みなが見ていて、噂になっていると教えられ、ほほを、朱鷺色に染めた。

昨夜、ゼット・ライトの腕にいだかれ、ワルツを踊ったとき、ガラリアは、はじめて、7つ年上の、ゼット・ライトの肌のにおいをかいだ。オーラ・マシンのにおいがした。そして肌が、しっとりと温かかった。手と手を握りあい、彼のもう一方の手が、素肌を露出していたガラリアの背中に、そえられた。ハイヒールの足もとがよろけたら、抱きとめられた。

彼がびくびくに照れているのは、よくわかったが、自分も、照れていることに気がついた。ガラリアは、触感の天才であったので、体に触れられると、とたんに、まいってしまうのだった。触らなば落ちん。ゼット・ライトが、自分に気があることは、じゅうぶんにわかっていた。悪い気はしないし、ずいぶん、彼に、仕事上も、私生活でも、甘えてきた。

しかし、肌を触れあったのは、はじめてだ。

私の乳房が、彼のおなかに押しつけられたとき、ゼットは遠慮するようにあわてて、腰をひいた。私の恥骨に、彼の股間がふれないように、ゼットが気を使っているのだとわかった。なぜそうしたのかを、察してしまったガラリアは、真っ赤になって、「すまぬ。」とだけ言い、彼から離れた。

宴(うたげ)のあと、自室に帰ってシャワーをあび、寝ようとしたガラリアは、ベッドで、自分がいまからすることを、完全に予測していた。それは、事前に用意してするものではなく、感情でおこなうものだからだ。

ガラリアは、その夜、

「あふ…」

ゼット・ライトに抱かれることを想像して、熱いオナニーをした。彼の体臭を思い、空想上の彼の胸に、しがみついた。彼の優しさを思い、くちもとをほころばせた。彼のハスキーボイスを耳元で感じ、もっと言ってと、ねだった。もっと、さっき言ったみたいに、言って。きれいって、言って。

ガラリアは、あふあふ、あえぎながら、うつぶせになり、あおむけになり、指は休みなく、挿入を待っている部分を刺激した。一度、イクまで、思いっきり、想像をエスカレートさせてみた。大柄なゼット・ライトが、自分の上におおいかぶさり、胎内を肉棒で、ぐちゅぐちゅ突きながら、おくちには分厚い舌を、ぐちゅぐちゅ挿入してくれて、乳房を優しくもみしだいてくれる想像。イクまで、ずっと、そうしてて!やめないで!もっと、おねがい、もっと。ゼット・ライト、お願いだから…して…

「ああっ!」

自分でも、こんなに大きな声が出たのかと、びっくりした。興奮で発汗し、髪の毛の先から、足の指先の爪までが、情欲にしびれきっていた。

女のオナニーは、断続的に、繰り返すことができるので、ガラリアはそのあとも何度か、いい気持ちになった。寝台で、うとうとしながら、自問自答した。

「私には、もう何年も、抱いてくれるひとが、いない。やっと、いい男性と、つきあえると思ったら…」

イヌチャン・マウンテンの初陣で、軍の先輩だった彼は、戦死してしまった。ガラリアの歴代彼氏は、初代も、2代目も、戦死であることを、悲しみと、あきらめの境地で、彼女はかみしめた。それで、今夜、抱かれたいと思ったひと、機械の館のあるじのことを考えた。

以前にもガラリアは、ゼット・ライトと恋人になってもいいかな、と魔がさしたことが、何度か、あった。それぐらい、ガラリアとゼットは、親しかった。お互いの仕事と人柄を、尊敬しあっていた。2人が出会ってから、もう、3年にもなるのだ。

女というものは、愛情という、精神のもっとも純粋な領域にいたっても、悪気なく、打算的である。恋人を次々と、戦死で失ってきた彼女は、前線に出ない技術者ならば、戦死の可能性は、かなり低いと考えた。

その上で、自分にとって第一義的な事実を、心のなかに、書き出してみた。

「さびしいのだ。私は、この燃える体を、もてあましているのだ。私は21歳、体の関係をもつ恋人を、ほしいと思う。もちろん、誰でもいいわけではない。私は、ゼット・ライトを、信頼している。彼を好きかと問われたら、好きだ。

そうだ、好きだ。ほかにたくさん、男たちがいるなかで、ゼット・ライトは別格だ。

ただ、しかし…私が彼を、そう思うのは、私のほうの感情に、端を発したのではない。

ゼット・ライトのほうが、私のことを、好いているという条件が、先にあるからだ。私を好いてくれている男だから、私も彼を、好きになったのだ。

この前提がなければ、そもそも、私にはトラウマがあるから、男に、やすやすと気を許したりしないのだ。私は、男によって、身体的、心理的に、深く傷つけられて、育った。思春期を、とうに卒業すべき、十代後半になっても、性的に未熟だった。アトラス。あの婚約者が、いてくれなかったら、私は男性恐怖症を、克服できなかっただろう。

いま私は、褥をともにする、恋人がほしい…ゼット・ライトならば、安心できる。私から、お花を、渡そうか…?」

バイストン・ウェルで、女から、男へ、生花を渡すという行為は、私を抱いて下さいという隠語である。お花をさしだす女は、裸にされ、貞操をうばわれ…なにをされてもいいという、覚悟を決めてかかるわけだし、男のほうは、礼儀として、これを受け取らなければならない。特に騎士階級の場合、この密通の誘いにおける、送り手と受け手のすべきことは、厳然たる掟のようなものだった。身分のある男女間であれば、恥の観念が先に立つから、なおのことだ。

新しい恋にむかって、逡巡しながらも、ガラリアは、本当は、バーン・バニングスだけを、愛していることは、痛いほどに自覚していた。本当に抱かれたい男は、バーンなのだ。だが、それは、かなわない。

真実の恋が、かなえられないからといって、自分に惚れている男性の気持ちを利用し、つきあったりしてはいけないと、以前の自分は、自分をいさめた。

しかし、そうやって日々をだまし続けて、もう何年になるのだ?この先も、ずっと独り身でいるのか。

「バーンは、リムルと、寝ていないのだなあ…。」

この新情報が、彼女を、居丈高にした。片恋の相手とちがい、自分は、恋人を選べる立場にある。バーンに見せつけてやりたいという、意地悪な気持ちも、手伝った。なによりも、ありていにもうさば、性欲を満たしたかった。自室の天井を見上げ、眠りに落ちた彼女は、密かに、決意していた。


こんどの、勤務明けに…ゼット・ライトに、お花を渡そう。

第36章更新後書き

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