月下の花

第35章 ダンバインをさがせ


戦勝祝賀会の夜が明けた、午前。ここは、ラース・ワウ第一会議室である。

「聖戦士ショウ・ザマが、逃亡したばかりか、ダンバインを盗み出された、だと?!なんたる不始末!ゼット・ライト殿!機械の館の警備は、どうなっていたのです!ダンバインの管理は、貴公の管轄であろう!」

すさまじい剣幕で、目上のゼットを、怒鳴りつけているのが、騎士団長のバーン・バニングスである。長髪をふりみだし、机を両手で、ばんばんたたき、その怒りようは、列席しているドレイク・ルフトはじめ全員が、驚嘆するほどだった。

ゼット・ライトは、神妙に謝罪した。

「すべて、おれの責任です。昨夜、鍛冶工たち全員に、無礼講の祝賀会に行こうと誘ったのは、おれです。留守には、掃除係りの下男を見張りにおいていましたが、」

怒りの矛先を、ゼット・ライト一人に向けたバーンが、先んじて言った。

「ねむり薬をかがされて、眠りこけていたそうですな。役に立たない見張りなど、見張りとは呼ばぬわ!ゼット殿、貴公が責任をとるとおっしゃるなら、いますぐ、ご自身でショウ・ザマを追いかけ、ダンバインを、取り戻してくるがよい!」

あまりにも一方的に、バーンが、ゼット・ライトだけを責めるのを、見かねて、弁護したのが、ショット・ウェポンであった。

「機械の館の最高責任者は、バーン殿、わたしです。手ぬかりがあった責めは、わたしも受けるべきだ。そして、すぎてしまったあやまちを責めていても、建設的ではない。

ドレイク閣下、さっそく、空色のダンバインの捜索部隊を編成しましょう。あれは試作機で、あれ自体が、機密のかたまりです。他国に渡しては、なりません。」

参謀ミズル・ズロムも、ショットの意見に賛同した。ところが、副団長ガラリア・ニャムヒーが、さっきから、珍しくおとなしく、黙っていたが、ふと思い出したように、バーンに向かって意見した。

「騎士団長バーン。ショウ・ザマが、出奔した原因には、私にも心当たりがある。私のせいかもしれない。機械の館ばかりを、責められないぞ。」 

えっ、と、素でおどろいたバーンが、ガラリアをふりむき、なぜかと尋ねた。ガラリアは、聖戦士トッド・ギネスふくむ、えらいひとがみんな列席している会議室で、きょとんとした顔で発表した。

「実は私、告白されてな。うーもすーもなく、お断りしたのだ。そうしたら、ショウ・ザマは、ぎゃんぎゃん泣いてしまってな。傷心のあまり、捨てばちになったのやもしれぬ。」

トッド・ギネスが、午前の紅茶を、ぶぷーっと吹き出し、くっくっと笑い、

「ガラリアさん、それ、なにも今ここで言わなくても。」

すると、鶴の一声で、会議室を制したのは、やはりお館様であった。ひじょうに怒っているようだが、今までこらえていたのだ。

「わしとて、身内の恥を、話さねばならん。昨夜、我が娘、リムルの寝室に、ショウ・ザマが侵入したという報告がある。」

会議室が、ざわついた。ドレイクは、バーン・バニングスを見やり、

「バーンは、知っておるだろう。ショウ・ザマが、リムルの部屋におったところを、そのほうが見つけ、こわっぱを、おいはらったそうではないか。女召使いが何人も、目撃しておるぞ。その時に、つかまえ、罪に問うておれば、かような結果にならずに済んだのだ。」

出席者全員が、こんどはバーン・バニングスを責める目になった。なんだ、あんたにも責任があるんじゃん。バーンは、全身をひとまわり小さくして、席に座った。ドレイクが続けた。

「しかし、ショット殿の言われるとおりだ。過去を議論しておるより、いますぐ、行動あるのみ。

我が娘が、みなに迷惑をかけたのだ。リムルを問いつめたが、なにも吐かぬ。じゃが、ギブンの残党が、あれをそそのかし、ショウ・ザマを勧誘したにちがいない。

警備隊、バーン・バニングス、守備隊、ガラリア・ニャムヒー。一個師団を率いて、空色のダンバイン、および、ゼラーナを捜索せよ。聖戦士トッド・ギネス殿も、青いダンバインで参加せよ。そなたが、ギブン家の伝令を、馬車ごと、なきものにした手腕、まっこと、見事である。期待しておるぞ。」

お館様の命令一下、ドレイク軍の主力部隊が、ほうぼうに飛び散った。

ウィング・キャリバー、バラウの操縦席に乗り込んだガラリアは、後部座席に、セザル・ズロムをしたがえ、ドロ隊の指揮は、ユリア・オストーク下士官に任せて、別方向に向かわせた。

ガラリアは、ボンレスの森を眼下に、監視をしながら、東へ東へ、進んだ。彼女は、捜索の目をけして休めなかったが、おしゃべりも休めなかった。

「なあ、セザル。会議でな、バーン・バニングスが、えらい勢いで、ゼット・ライトに、あたりちらしてな。みんな、ドン引きしたのだ。なぜに、ゼットだけを、あのように責めたのだろう?けっきょく、ショウ・ザマによるダンバイン盗難事件は、軍全体の、警備面が甘いからだという、結論に達した。それなのに、バーンは、荒い言葉で、ゼットだけを、いびって。ひどかったぞ。」

昨夜、機械の館の下男に、ねむり薬をかがせた張本人は、しれっとして答えた。

「それはさ、きっと、やきもちさ。」

「やきもち?なにを?だれが?」

「ウーン。困ったさ。えっと。祝賀会で、ゼット・ライト殿は、ガラリア様に、地上の踊りを教えていたさ。べったりくっついていたって聞いたさ。」

するとガラリアは、とたんにほほを赤らめた。彼と、べったりくっついていた自覚が、あるらしい。セザルは、あくまで一般論として、この話題を片付けた。

「バーン・バニングス殿は、好きでもない婚約者が、敵と密通してるし、そのせいでショウ・ザマは遁走したし、いらいらしてたのさ。ショウ・ザマの逃げる姿を、最後に見ていながら、とらえておかなかった自分の責任を、転嫁したかったんじゃないかな。」

「それで、ゼット・ライトに?」

「そうさ。祝賀会で、ゼット殿が、きれいどころを独り占めしてたのが、そもそも気にくわなかったのさ。え?なぜかって?あのさ、男なら誰だって、やきもちやくさ。色っぽーい女性陣と、抱き合って踊ってたらさ。そしたら、機械の館から、ダンバインが盗まれたでしょ。くそー、みーんな、あのゼット・ライトが悪いんだと。そんなとこだろうさ。あのひと、単細胞だから。」

特に、ガラリアと抱き合っていたから、バーンが嫉妬したのだとは、セザルは言わなかったが、おおかた、正しい解説である。

そこへ、青いダンバインのトッド・ギネスが合流し、無線をよこした。

「ガラリアさん、そちらの機体と、ドッキングさせてもらいたい。方角は、こっちが怪しいからな。」

「いいぞ、トッド・ギネス。あなたの眼力、おおいに、頼みたい。」

「あなただなんて、よしなよ。ガラリアさん。俺は客分だが、部下だ。なんでもかまわず、指示してくださいよ。」

飛行艇のバラウは、オーラ・バトラー汎用機と、合体できる仕様になっている。トッド機は、ガラリア機に腰掛けるかたちで合体し、合同で、ゼラーナの捜索を、東方面にすすめた。

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