月下の花

第28章 ギブンの館、終焉


ドロの上部甲板に立ち、マイクを手にして、各機に号令を出すガラリアは、ソプラノの声を、ギブンの館の上空に、こだまさせた。

「機械の館をねらえ!本館の東にある建物だ。手ぬるい、弾幕でうめつくせ。」

トッドの青いダンバインが、前回の汚名返上とばかりに、勇んで、ガラリアの直属機として、戦闘に徹していた。トッド・ギネスも、味方機に知らせた。

「ゼラーナが、森林地帯から、出てきたぞッ。敵さんも、準備してたねェ。ガラリアさんの言ってる、機械の館とやらは、もぬけのからだぜ。」

ガラリアは、戦士としてきわめて冷静に、最優先事項を、マイクでさけんだ。

「よし、攻撃、ゼラーナに集中だ。いいか、われわれの標的は、ダーナ・オシーだ!ダーナ・オシーをみつけたら、必ず落とすのだ。」




そのころ、ダーナ・オシーの主任パイロット、マーベル・フローズンは、ほうほうのていで、ギブンの館、本館から、逃げ出していた。館は、あちこち被弾し、炎上しはじめていた。マーベルは、ブーツをしっかりはくこともできず、スパッツのすそを、ときどきふんでは、転び、顔をすすだらけにして、誰にも見られないよう泣き、しゃくりあげていた。

彼女のひたいは、ガンガン痛み、「もう2度と、おまえは、犯してはやらぬ。」という、バーン・バニングスの捨て台詞が、耳から離れなかった。それでいて、股間を、手でギュッと、ときどき、おさえないでは、いられなかった。何十回と、逝かされた直後なのだ。

情交の後、男はすぐに、平静をとりもどすように、身体が設計されているが、女は、まるで逆なのだ。特に、快感を天井に尽くした、まぐわいだった場合、余韻のうまみは、数日でも、十日でも、おしまいには何年でも、続くことがある。マーベルは、この女の習性を、逆手にとられ、完全に、バーン・バニングスに敗北をきっしたのだ。

憎い。

自分から誘っておいて、反対にもてあそばれ、その男根に、魅了されてしまった悔しさを、どうしたら忘れることができるだろう。恋焦がれさせておいて、同時に、汚物を捨てるような態度で、やり逃げされたのだ。徹底的な、侮辱だ。どうだ、こんなこと、誰にも言えないだろうと、その男に、嘲笑されたのだ。

憎い、憎いその男の、肉棒の味を、女陰で感じ続け、ハアハアと、あえぎ続けなければならない。

「あの男…殺してやるぅっ。」

そう言いながら、マーベルは空を見上げた。ゼラーナがそこにいた。いそぎ、裏手の森に走ったマーベルは、杉の枝でおおい隠した簡易飛行機、シュットをとり出し、うずく股間に耐えながら、飛び乗った。

非常にめざといガラリア・ニャムヒーが、一機のシュットが、スイスイ飛びながら、ゼラーナに接近しているのを、早々に発見した。誰だ?と考えるより先に、マーベル・フローズンだと気づいたガラリアは、ものも言わずに、ドロの操縦席にすべりおり、そこにいた部下を蹴り飛ばし、ミサイルの発火ボタンをおしていた。

殺す。あの女は、私が殺す。

第1発は、マーベルに当たらなかったが、ガラリアは、執拗に狙った。マーベルは、オーラ・シップ、ゼラーナに着艦し、格納されたダーナ・オシーに搭乗したかった。ゼラーナも援護した。ガラリアのドロ砲は、連射され、つぎにはマーベルに当てるという、手ごたえが持てた、そのとき。

意外な行動にでたのは、空色のダンバインだった。ショウ・ザマ機は、ガラリアのドロと、マーベルのシュットのはざまに、分け入るようにして入り、どちらを攻撃するでもなく、オーラソードを闇雲にふりまわした。即座に怒鳴ったのが、トッド・ギネスだった。

「邪魔だい、ジャップ!撃たれてェのかよ。どけッ!」

怒鳴っても聞けないらしいと見てとるや、青いダンバインは、空色のダンバインを羽交い締めにして、問題空域から離散した。その間に、マーベルはゼラーナにたどり着き、浅黄色の平服のまま、ヘルメットを受け取り、ダーナ・オシーに搭乗した。




ダーナ・オシーが、艦船ゼラーナから発進したとき、バーン・バニングスは、既に赤いドラムロに乗り、友軍に合流していた。

ギブンの館から甲冑姿のバーンが出てきたら、すぐ、ブル・ベガーに戻れるように、ドロ一機を隠し、待機していた部下数名が、彼を出むかえた。部下どもは、バーンを待ちながら、「やけに遅いな」とは、思った。戻ってきたバーンは、特になにも言わなかったので、部下どもは、騎士団長殿が、無事でよかったと思った。

さて赤いドラムロに、ゆうゆうと乗り込んだバーン・バニングスは、ゼラーナも、ダーナ・オシーも、わたしが料理してやると、息を荒げていた。ついさっき女を犯したときよりも、今のほうが、ずっと激しく、興奮していた。

ガラリアのドロ、トッドの青ダンバイン、バーンの赤ドラムロ。これだけの陣形で狙い撃ちすれば、ダーナ・オシーは落とせるだろうと、アメリカ空軍兵トッド・ギネスは、思い描いた。と、その時、ドレイク軍各機のスピーカーに、くぐもった周波数帯からの、のどをしぼったような、報告の声が、通じた。

「ブル・ベガーへ!ブル・ベガーへ!応答してほしいさ。誰か、聞いてないかな。あのさ、たいへんさ。」 ガガガ、雑音が入り、聞き取れなくなった。

ガラリアも、バーン・バニングスも、艦長ミズル・ズロムも、その報告を耳にしていたのに、それが誰なのかを、その重要性を、いちはやく察知したのは、トッド・ギネスだった。

「セザル・ズロムかっ!どうした、セザル、聞こえているぞ。こちらは、ブルー・ダンバインのトッド・ギネス!」

トッドの応答も、各機に通じている。ブル・ベガーの操舵席から、身をのりだした、父親のミズル・ズロムが、

「セザルなのか?!どこにいる、なにをしている。」 パパはむしろ、息子の身をあんじて言った。

ガガガ、スピーカーは鳴り続けた。雑音のところどころに、セザルの声が混じる。

「…報告があるのさ…ギブンの馬車……馬車に……ギブンの奥方が…手紙が……」

バーン・バニングスが、軍の最上級司令官として、命令口調で、マイクに応じた。

「ロムン・ギブンの奥方が、どうしたというのだ。今は、それどころではないのだ、セザル。逃亡するものなど、ほうっておけ。」

「待ちなぃ、騎士団長。セザル、俺だ、トッドだ。報告を続けてくれ、音声が悪い!」

トッドが割って入った。地上人の彼は、セザルと確執のあるバーンよりもずっと、彼の潜在能力を看破していたので、この戦況で、無線で知らせようとするほど、なにか重大な事態があるのだと確信したのだ。

ガラリアはというと、スピーカーごしのやりとりに、耳は貸していたが、ずっと連続して、ダーナ・オシーを標的に、撃ち続けていた。正しい判断で動いている。

空色のダンバインに乗っているショウ・ザマは、セザルの声が聞こえただけで、ゾッとした。なんだあいつ、どこから無線とばしてるんだ?だってあいつは、今朝のギブン領行軍に、参加してなかったはずだ。城に、残っていたのを、セザルが怖いから、俺はちゃんとチェックして出てきたんだぞ。

父親のミズルには、だんだんわかってきた。セザルは、ドレイク軍参謀の、わたしの間諜として行動しているのだ。本日の作戦も、隠れて見張っていて、われわれがなにか、重大な失策をしていることを、知らせてよこしているのだ。父親ミズルも、スピーカーに耳をすまし、息子に呼びかけた。

「…トッド、ありがとうさ!…ブル・ベガー、聞こえますか…たいへんなのは手紙さ…馬車…馬車…エルフ城に、むかっている馬車さ!」

ようやく、セザルの意図が通じた。ミズルが号令を出した。

「全艦、各機、聞けい!敵の馬車が、王城エルフ城にむかっている。我が軍が王室にたいし、反逆行為を企てていると、密告しようとするものに、ちがいない。馬車を、探せ!探し出して、行かせるでないぞ!」

スピーカーの雑音とともに、セザルの周波数帯も、かき消えた。ガラリアは、眼前のダーナ・オシーから、離れたくなかった。もう少しで、落とせたのに!ミズルの命令に、即座に従ったのは、青いダンバインと、赤いドラムロだった。搭乗するトッド・ギネスと、バーン・バニングスは、競争するように、ギブンの馬車を探しに、飛んで行った。それを後方から、ゼラーナとダーナ・オシーが砲撃するので、ガラリアは、援護の役に徹して、敵機を狙い撃ちし続け、心情と命令の合致に、成功した。




ギブンの館から、エルフ城へは、どの馬車道で行くのか、見当がつくバーン・バニングスの赤ドラムロが、ギブン領の西方へと飛び、トッドがダンバインで、後を追った。見つけた。セザルが報告した馬車は、あれにちがいない。ニー・ギブンの母親、カーロ・ギブンが手紙を持って乗っている、まさにそれらしき馬車が、天領とギブン領との境にある、関所に接近中で、その数百メートル寸前であった。関所は、石造りの、小さな屯所があるだけで、数名の兵士が、馬車がこちらへと疾走してくる様子と、上空には、オーラ・バトラーが2機、飛んできている様子を、眺めているのが、遠目にも判別できた。

「まずいぞ、フラオン王の近衛兵が、関所にいる。」

バーン・バニングスがつぶやいた。

「なんだい、バーン。ギブンの馬車を攻撃すんの、王様にバレちゃまずいってか。」

つぶやきはマイクがひろっていたので、トッドが相談に応じた。考えている時間がないことも、二人ともわかった。馬車と、関所の間が縮まるほど、オーラ・バトラーからの攻撃は、難しくなるのだ。バーンが先んじた。

「ままよ!もろともに、砲撃する。」

赤いドラムロの、両腕に装填されているフレイボムを、バーン・バニングスが、眼下に向けた。トッドがそれを制した。

「よしなよ。撃ったら、王家への反逆罪になるんだろ?俺にまかせてくれ、バーン・バニングス。こないだの、借りを返すぜ。」

「どうするつもりだ、トッド・ギネス?」

「説明してる暇はないッ!」

青いダンバインは、失速し急降下し、馬車の上に落下した。馬車は、にぶい音をたててつぶれ、乗っていた人間は、まちがいなく死んだ。かろうじて、四頭立ての馬には、息のあるものも、残っていたが。関所にいた近衛兵たちが、わあわあ言いながら、事故現場へと、走ってきていた。故障して落下したと見せかけ、実際には両手両足をついて着地した。うつぶせのダンバインから、腹部コクピットを開き、飛び出したトッド・ギネスは、つぶれた馬車を点検し、真っ赤な肉塊となったカーロ・ギブンが、握りしめていたとおぼしき、巻きもの状の手紙を、探しだして、ポケットにつめこんだ。

そこへやって来た男たち、フラオン・エルフ国王の近衛兵に、トッドは、情けなく、泣き出してみせた。

「ああ、どうしたらいいんだい。俺、地上人なんで。こんな機械を、操縦しろって言われて、訓練してたら、落っこっちまったぃ。馬車が…うわあ、死んじまってる!俺っちが殺した!俺っちが殺したんだあ。」

なきべそをかきながらトッドは、この筋書きだったら、、ドレイク軍が天領付近の関所でおこしたことは、事故扱いで済み、聖戦士の俺は無罪放免、ドレイク軍が、いちばん困る事態は、未然に防ぐことができたと考えた。

まったく、うまい判断だった。上空の赤いドラムロは、呆然と見下ろしていた。バーンは、驚愕した。あの男…トッド・ギネス。なんという、頭の切れるやつだ。そして、いつの間に、セザル・ズロムと、つながっていたのだ?




その日の暮れる、夕食どきまでには、ドレイク軍全兵、ギブン領から、撤退完了。ギブンの館一帯は被弾し、延焼した。焼け跡から、真っ黒に炭化した、ロムン・ギブンの遺体が、発見された。

硝煙ただよう焼け跡に、二人の男女が、立ちつくしていた。両親を、ドレイク軍に殺された、ニー・ギブン。バーン・バニングスに、陵辱された、マーベル・フローズン。恨みの心が、新たに生まれ、そして、名城とうたわれた、ギブンの館は、この日、終焉をむかえたのだった。


<次回予告>

BGM ♪ちゃららら ちゃらららららっ

ひゃっほぅ、セザルでぇーす。激暗なラストシーンなのに、僕のお気楽極楽なナレーションでごめんねい。
さて、この章で、長かった、ギブンの館編は、おしまいさ。なにが長かったって、書き始めたのが2005年、書き終えたのが、2013年ってゆう、途中で連載中断してた時期が、長かったさ。まっ、そこはそれ、きっと筆者が、はてなダイアリーの更新後書きで、思いのたけを、ぶちまけると思うさ。

感想は、こちらのコメント欄にどうぞさ! →「月下の花」第26章、27章、28章の更新後書き

さあて、次回の「月下の花」は。ギブンの残党は、ゲリラに身を落とし、僕らドレイク軍への復讐を誓い、ショウ君を味方にひきこむ作戦を続行。ショウ君ったら、あっちにいっちゃうのかな〜?

僕らドレイク軍は、フラオン王懐柔策に成功、ギブン領の支配権を得て、アの国全土の統一軍を編成。小国ミの国を制覇せんと侵攻を企てるんだけど、みんな覚えてるかな〜?ミの国には、ガラリア嬢の元彼、アトラスさん(故人)の、直属の部下だった7人がおちのびて、今はピネガン・ハンム王の部下となって、働いてるのさ。

そして、恋愛エロ小説である「月下の花」にとって大事なのは、恋愛問題、だよねえ。
次回、トッド・ギネスと、ガラリア嬢が、急接近!バーンは、それとゼット・ライトは、どうする?どうなる?楽しみさ。

じゃっ、またねい。

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